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美の監禁に手渡す者    
  智恵子抄
 
    

詩: 高村光太郎 (Takamura Koutarou,1883-1956) 日本
    智恵子抄 25 美の監禁に手渡す者

曲: 清水脩 (Shimizu Osamu,1911-1986) 日本   歌詞言語: 日本語


納税告知書の赤い手触りが袂にある、
やつとラヂオから解放された寒夜の風が道路にある。

賣る事の理不盡、購ひ得るものは所有し得る者、
所有は隔離、美の監禁に手渡すもの、我、

兩立しない造形の秘技と貨弊の強引、
兩立しない創造の喜(よろこび)と不耕貪食の苦(にが)さ。

がらんとした家に待つのは智恵子、粘土、及び木片(こつぱ)、
ふところの鯛燒はまだほのかに熱い、つぶれる。



光太郎の詩集では「あどけない話」からひとつ置いて25番目の詩ですが、「あどけない話」の昭和3年からは少し間を置いて昭和6年3月です。少々難解な感じの詩ですが、芸術に奉仕したい気持ちと、生きていくためにどうしても必要なお金を稼ぐこととの現実との板挟みに悩みぬく芸術家の姿がここにあることは良く分かります。この曲は緊迫したピアノの前奏のあと語りから入るという業を使っています。歌になってからも伴奏は雄弁なメロディを奏でますが、歌は最初の語りを引きずっています。主人公の苦悩を非常に効果的に表しているようです。

( 2011.06.05 藤井宏行 )


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