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Uzh ty,niva moja!   Op.4-5  
  Shest' romansov
おお、お前、わが畑よ  
     6つのロマンス

詩: トルストイ,アレクセイ (Count Aleksei Konstantinovich Tolstoy,1817-1875) ロシア
      Уж ты,нива моя,нивушка(1854)

曲: ラフマニノフ (Sergei Rachmaninov,1873-1943) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Uzh ty,niva moja,nivushka,
Ne skosit’ tebja s makhu edinogo,
Ne svjazat’ tebja vsju vo edinyj snop!

Uzh vy,dumy moi,dumushki,
Ne strjakhnut’ vas razom s plech doloj,
Odnoj rech’ju-to vas ne vyskazat’!


Po tebe-l’,niva,veter razgulival,
Gnul kolos’ja tvoi do zemli,
Zrely zerna-vse razmetyval!

Shiroko vy,dumy,porassypalis’,
Kuda pala kakaja dumushka.
Tam vskhodila ljuta pechal’-trava,
Vyrostalo gore gorjuchee.

おお、お前、わが畑よ、愛する畑
誰も一振りで刈り取れはしない
誰も一束に束ねられはしない

おお、お前、わが夢よ、愛する夢
誰も一払いで肩から振り落とせはしない
誰も一言で語りつくせはしない


お前の上を、畑よ、嵐が吹き荒れれば
茎は大地へとなぎ倒されるだろう
実った穂はばらばらに引きちぎられるだろう

お前もまたばらばらに、夢よ、引きちぎられるのだ
そしてはるか遠くに蒔かれたら 愛する夢よ
そこには冷たく悲しい草が生えてくるのだ、
むごい悲しみが育つのだ


語学と音楽の天才として、モーツアルトからヤナーチェク、ムソルグスキーからプッチーニまで何でもこなす往年の名テノール、ニコライ・ゲッダのロシア歌曲といえば、ぜひ聴いてみない手はありません。ということで偶然インターネット通販で見付けた彼のラフマニノフ歌曲集を買って聴いてみたら大変面白かったのでここにレポートします。
ひとことで言えば、「ヤケドしそうに熱い」ラフマニノフが聴ける異色の解釈なのですが、これには伴奏者(なんとあの強者ピアニスト・アレクシス・ワイセンベルク!)の力も多大に貢献しています。とにかく叩き付けるようなピアノのフォルテに負けじと応酬するテナーの絶叫は生々しく、前にご紹介した「乙女よ、私のために歌うな」でも、クライマックスは「歌うのやめてくれえ〜〜〜」というプーシキンの魂の叫びが聴け、思わずのけぞってしまいました。このアプローチが絶妙に生きたのが「嵐」(プーシキン)や「悲しみの収穫」(トルストイ)などで、ことのほか印象的な仕上がりです。ただ、しみじみ聴かせるような曲はちょっとミスマッチ感が激しく、中でも有名な「ヴォカリーズ」は、情緒もへったくれもない叫びが5分間続く、トンデモない(笑えますけど)演奏が聴き物となってしまいました。
ということで、そのうちの1曲、「悲しみの収穫」を訳してみました。
ラフマニノフとしては割と初期の歌曲のようですが、どっぷり浸り込む悲しみの描写は典型的ロシア民謡、情念の濃さは特筆ものです。ワイセンベルクの強力なピアノの打鍵に、負けじと張り上げられるテノールの絶叫、こんなのをライブできいたら鳥肌が立ってしまうのではと思うくらい強烈です。
この曲はラフマニノフ歌曲の中でも割と有名な曲のようで、かなりたくさんの録音を聴くことができますが、私はこのゲッダの録音を聴くまで、この曲がこんなに凄いものとは気が付きませんでした。
いい加減「ロシア歌曲」=「暗めの声のバス&アルト」というステレオタイプ的発想は止めなければ...

(2000.02.07)

原詩を追加するにあたり、訳詞を大幅に見直しました。タイトルも何も考えずにDeccaの全集の英語訳をそのまま訳して「悲しみの収穫」としていましたのを、原題により近い「おお、お前、わが畑よ」に直しました。「悲しみの収穫」という題も英語圏ではかなり普通に通用はしているようですけれども。

( 2008.08.01 藤井宏行 )


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