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Music to hear    
  Three Songs from William Shakespeare
聴くための音楽なのに  
     3つのシェイクスピアの歌

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド
    Sonnets 8 Music to hear,why hear'st thou music sadly?

曲: ストラヴィンスキー (Igor Stravinsky,1882-1972) ロシア   歌詞言語: 英語


Music to hear,why hear'st thou music sadly?
Sweets with sweets war not,joy delights in joy.
Why lovest thou that which thou receivest not gladly,
Or else receivest with pleasure thine annoy?

If the true concord of well-tunèd sounds,
By unions married,do offend thine ear,
They do but sweetly chide thee,who confounds
In singleness the parts that thou shouldst bear.

Mark how one string,sweet husband to another,
Strikes each in each by mutual ordering,
Resembling sire and child and happy mother,
Who,all in one,one pleasing note do sing.

  Whose speechless song,being many,seeming one,
  Sings this to thee: “Thou single wilt prove none.”

聴くための音楽なのに、どうしてあなたは音楽を悲しげに聴くのですか?
甘きものは甘きものと争わず、喜びは喜びの中で喜ぶのです
どうしてあなたは愛するのですか あなたが喜んで受け取れないものを
また喜んで受け取るのですか あなたを悩ませるものを?

もしも良く調律された音たちの真の和声が
調和して結びつけられたものが、あなたの耳を不快にするのなら
その音はやさしくあなたを叱っているのです、勝手に乱しているあなたを
あなたが担うべきパートのひとつを

お聴きなさい 一本の弦が 別の一本の弦のやさしい夫となって
互いに互いを響かせ合い 調和した秩序を形作るのを
それは父と子と 幸せな母とに似ています
ひとつになって 一曲の楽しい歌を歌っている彼らみたいな

  その言葉のない歌は 多くの音がひとつになって聞こえるのです
  あなたに歌いかけているのです 「ひとりぼっちじゃ何にもなりませんよ」って


シェイクスピア初期の喜劇「恋の骨折り損」より、劇の大詰めに登場人物達が仮装して現れ、片方はフクロウとなって冬を歌い、そして他方はカッコウとなって春を歌います。王様とその友人3人が、フランスのお姫様たちにいいようにからかわれるお芝居の幕切れとしては意味深長な歌ではないでしょうか。この場面も劇音楽としては大切なところなので、古今東西たくさんの作曲家達が曲を付けていますが、聴いて一番面白いのはストラビンスキーのものでしょう。
何が面白いといって、この曲はストラビンスキーが70歳を超えた時期の作品なのですが、彼は何とこんな歳になってからシェーンベルクの12音技法にチャレンジを始めたのでした。そんな時期の所産のひとつがこの曲を含む「3つのシェイクスピアの歌」です。ですが、ストラヴィンスキーはこの12音技法を、創案者のシェーンベルクやウェーベルンのように厳密には適用していませんので、無機的な響きとロマンの残滓がゆらゆらとたゆたいながら溶け入っていくような不思議な歌を生み出したのです。歌に纏わりつく木管のアンサンブルはロシアの春を思わせるような、ちょうど彼の初期の傑作「春の祭典」の抒情的な部分を思わせる響きです。声とクラリネットがカッコウの声を真似したり、ストラヴィンスキーの歌曲によく見られる色彩感溢れる曲のひとつとなっています。

そのあたりの色彩感が見事なのはブーレーズ指揮アンサンブルアンテルコンタンポランの盤(DG)でアン・マレーが歌っているものです。無機的にさえ聞こえる研ぎ澄まされた木管のアンサンブルがほのかなロマンをたたえるこの歌の伴奏をするのはけっこうな聴きものです(ストラヴィンスキー歌曲集)。現在入手が容易そうなので面白いと思った演奏は、パーセルからヘンデルあたりが本来のレパートリーと思っていたホグウッド(指揮)とカークビー(ソプラノ)のコンビがストラビンスキーの声楽作品他をいくつか録音しているARTE NOVA盤です。
(伴奏はバーゼル室内管)伴奏の切れ味はブーレーズのものには及びませんが、この曲や新古典主義時代のストラヴィンスキー作品の古典とのつながりを味わわせてくれる素敵なアルバムです。(ヘンデルのアリアのパロディのような「放蕩者のなりゆき」からのアリアなど実に面白いです)

(2003.04.05 第3曲のみの紹介)

第1曲目はソネットの第8番、第2曲目は劇「テンペスト」より妖精エリアルの歌う歌、そして最終曲は上にも書きました喜劇「恋の骨折り損」大詰めの合唱です。

( 2011.05.22 藤井宏行 )


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