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Es war ein König in Thule   S.278  
 
昔トゥーレに王様がおりました  
    

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Faust Teil 1(ファウスト 第1部 1806) 11.Abend (夕べ) Es war ein König in Thule

曲: リスト (Franz Liszt,1811-1886) ハンガリー   歌詞言語: ドイツ語


Es war ein König in Thule,
Gar treu bis an das Grab,
Dem sterbend seine Buhle
einen goldnen Becher gab.

Es ging ihm nichts darüber,
Er leert' ihn jeden Schmaus;
Die Augen gingen ihm über,
So oft er trank daraus.

Und als er kam zu sterben,
Zählt' er seine Städt' im Reich,
Gönnt' alles seinem Erben,
Den Becher nicht zugleich.

Er saß bei'm Königsmahle,
Die Ritter um ihn her,
Auf hohem Väter-Saale,
Dort auf dem Schloß am Meer.

Dort Stand der alte Zecher,
Trank letzte Lebensgluth,
Und warf den heiligen Becher
Hinunter in die Fluth.

Er sah ihn stürzen,trinken
Und sinken tief in's Meer,
die Augen thäten ihm sinken,
Trank nie einen Tropfen mehr.

昔トゥーレに王様がおりました
奥様思いの方でしたが
形見に金の杯を残し
奥様は先立たれてしまいました

この大切な杯を
すべての宴で王様は使いました
そしてこれで酒を飲めばいつも
目からはとめどなく涙が溢れました

死を前にして王様は
王国の都市を数え上げ
すべての資産を王子に譲りました
大事な杯だけを手元に残して

世継ぎを祝う祝宴を
海辺の城で開きます
祖先を祭るその部屋に
騎士たちはたくさん集まりました

老いた王様はそこに立ち
最後の命の火を飲み干して
そして形見の杯を
波の底にと投げ込みました

ゆらゆらと沈み、消えてゆく
杯を見届けた王様は
やがて静かに目を閉じて
二度と酒を口にすることはありませんでした


こちらはゲーテでも「ファウスト」の一場面。マルガレーテが永遠の愛に憧れて歌う物語詩で、非常に美しい夫婦の愛を描いています。たくさんの作曲家がメロディをつけており、シューベルトのものなどは大変に有名ですが、このリストの書いた作品も傑作のひとつとして良いでしょう。リストの歌曲の中でも比較的よく演奏されます。
憧れに満ちた昔話として、たいへん美しいメロディの曲なのですが、リストの曲の特徴はそれがたいへんにドラマティックなこと。少女の鼻歌にしては少々大仰な感じもしなくはないですが、この緊迫感は魅力的です。ピアノがまた華麗に活躍するのが素晴らしい。1842年に最初のバージョンが、そして1856年頃に改訂された第2版が出版されております。

( 2011.01.30 藤井宏行 )


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