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Now sleeps the crimson petal   Op.3-2  
  Three Songs
今、深紅の花びらは眠り  
     3つの歌

詩: テニスン (Lord Alfred Tennyson,1809-1892) イギリス
    The Princess  Now sleeps the crimson petal

曲: クィルター (Roger Quilter,1877-1953) イギリス   歌詞言語: 英語


Now sleeps the crimson petal,now the white;
Nor waves the cypress in the palace walk;
Nor winks the gold fin in the porphyry font:
The fire-fly wakens: waken thou with me.

Now folds the lily all her sweentness up,
And slips into the bosom of the lake:
So fold thyself,my dearest,thou,and slip
Into my bosom and be lost in me.

今、深紅の花びらは眠り、そして白い花びらが眠ります
宮殿の小道の糸杉が風もなくじっとしているように
水槽の金魚がまばたきをしないように静かに...
そして蛍があなたを目覚めさせる。あなたと私を。

今、すべての優しさを包んだユリの花が
湖のふところへと抱かれています
だから、あなたも、あなた自身を包んで
私の胸に抱かれ、すべてを忘れるのです

クィルターの作品としても初期の作品ではありますが屈指の傑作として知られ、多くのイギリス歌曲集で耳にすることができる曲だと思います。
ただ、詩は難解でうまく訳せているかどうか自信がありません。

実はこの詩、テニスンの物語的な長詩「The Princess」の一部分ですので、これだけ取り出して訳そうとしても何がなんだか分からない、その上クィルターは詩の中間部分を省略してしまったのでますます分かりにくいものになっているのだと思います。
この「The Princess」、女性の方には申し訳ありませんが、テニスンが当時のイギリスのフェミニズム(女権拡張運動)を揶揄して描いた風刺的な物語ということで、女権拡張に目覚めた南の国のイーダ姫が北の国の王子との婚約を破棄して女大学を作るが、いろいろあって最後はメロメロになって王子と結ばれる(ずいぶん乱暴なあらすじだ)というものです。これを下敷きにして、サヴォイ・オペラの名コンビ、ギルバート&サリバンが「Princess Ida」というオペレッタを書いていることも特筆しておくべきでしょう。
詩は、婚約不履行がもとで戦争になった南の国と北の国で、北の国の傷ついた若者を、その女大学で看病しているシーン、ここでまあ、恋が芽生えたというシチュエーションのようです。
(原典に当たっていないので自信なし)
話は大変陳腐なような気もしますが、風刺ですからそれがテニスンの狙いかも。けれどもそこに使われた詩は、私が勘違いしている恐れは多分にあるものの実に美しい、余韻のあるものです。
誤解かも知れませんがそういうつもりで訳してみました。

クィルターの付けた曲も、伴奏から美しく飾った技巧を凝らしたものです。
これだけの長さの詩であるにも関わらず、演奏に2分以上かかるという力作です。
イギリスの主だった歌手には皆録音があるのではないかと思いますが、私が好きなのはCollinsレーベルのリサ・ミルンのソプラノ、透き通った声とゆったりしたリズムが良いです。
様々な作曲家をフィーチャーしていたCollinsのイギリス歌曲集シリーズは廃盤になってしまいましたが、次々とNaxosから廉価で再発されてきていますからいずれまた手に入ることでしょう。
ボストリッジやラクソンなどの男声陣の歌も良いですが、やはりこの曲は女声の歌だと私は思います。

( 2003.05.24 藤井宏行 )


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