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六騎    
 
 
    

詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本
    思ひ出 (1911)  六騎

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


御正忌(ごしようき)參詣(めえ)らんかん、
情人(やね)が髪結うて待つとるばん。

御正忌參詣らんかん、
寺の夜あけの細道に。
 
鐘が鳴る、鐘が鳴る、
逢うて泣けとの鐘が鳴る。



方言がきつくて、何を言っているのだか良く分からないにも関わらず、不思議な力強さを感じさせる印象的な歌です。六騎(「ろっき」ではなく「りっきゅ」と読みます)とタイトルからして何だか分からないものが付けられていますね。実はこの六騎、平家の落人伝説に基づいております。戦いに敗れた平家の落ち武者六騎が、白秋の故郷柳川の近郊沖の端に住み着いて子孫を残し、彼らのことも六騎と呼ばれるようになったのだそうです。漁師をして生計を立てていたこともあり、白秋いわく「海に近いだけ凡ての習俗もより多く南国的な、怠惰けた規則(しまり)のない何となく投げやりなところがある。〜中略〜凡てが露(あらは)で、元気で、また華やかである」という、城下町・柳川のかっちりした人々とはかなり文化の違った人たちのようです。例えとして適切かどうか分かりませんが、柳川人が真面目なサラリーマンで、この「六騎」が六本木あたりで元気にはじけている若手のギョーカイ人といった感じでしょうか。

歌詞にある「御正忌」というのは親鸞上人の命日、旧暦でいうと霜月11月の28日ですが、新暦ではちょうど今頃、1月の16日にあたります。また白秋の文章を引用しますと「霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要に寺々の鐘鳴りわたり、朝の御講に詣づるとては、わかい男女夜明まへの街の溝石をからころと踏み鳴らしながら、御正忌参(めえ)らんかん…………の淫らな小歌に浮かれて媾曳(あひびき)の楽しさを仏のまへに祈るのである。」
ということで、またまた今の東京に引き写しますと誕生日と命日の違いはありますが、時期も近いこともあり感覚的にはギョーカイの持ち上げる若い人たちのクリスマスの過ごし方に重なり合うでしょうか。ちょっと古い歌で恐縮ですが、スキーのCMソングとして一世を風靡した「ロマンスの神様」の筑後柳川版といえばそこそこ正解かと思います。

そんな予備知識を入れてから詩をじっくり読むと、実になまめかしいと思いませんか? 翻訳すれば「クリスマスがやってきたから 彼女が髪を梳かして待ってるのさ」といった感じの今のポップス(作詞が下手ですみません)に通じるところがあります。

( 2011.01.15 藤井宏行 )


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