AIYANの歌 AIYANの歌 |
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いぢらしや、 ちゆうまえんだのゆふぐれに 蜘蛛(コブ)が疲れて身をかくす、 ほんに薊の紫に 刺(とげ)が光るぢやないかいな。 (UNTEREGAN のあん畜生はふたごころ。 わしやひとすじに。) |
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AIYANというのは下女や子守り女のこと、彼女がくちずさむ仕事唄でしょうか。「ちゆうまえんだ」には原詩では傍点が振られており、詩の註に「私の家の菜園の名」とあります。そこで仕事をしている下女が、アザミの葉の陰に隠れるクモを見て感情移入をするといったところでしょうか。きれいなアザミにはトゲがあり、二股の恋で私を裏切るのです。私の想いは一筋なのに...といったところでしょうか。うしろの括弧で括られた部分は恐らくは白秋が耳にしたAIYANの歌った歌そのままなのでしょう。UNTEREGANの註に「あの畜生?」とクエスチョンマークをつけています。
歌はおどけた感じのピアノ前奏をうけて何ともけだるい歌が始まります。ユーモラスな恋の歌のようでもあり、怒りに震えているようでもあり、不思議な表情は聴いていてもとても面白いです。
「ちゅうまえんだ」には白秋自身のこのような文章があります。ご参考までに転記致します。
(詩集「思ひ出」の序「わが生ひたち」より)
そのちゆうまえんだはもと古い僧院の跡だといふ深い竹籔であつたのを、私の七八歳のころ、父が他から買ひ求めて、竹籔を拓き野菜をつくり、柑子を植ゑ、西洋草花を培養した。それでもなほ昼は赤い鬼百合の咲く畑に夜は幽霊の生じろい火が燃えた。
( 2010.11.07 藤井宏行 )