NOSKAI AIYANの歌 |
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堀のBANKOをかたよせて なにをおもふぞ。花あやめ かをるゆふべに、しんなりと ひとり出て見る、花あやめ。 |
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歌曲集「AIYANの歌」、詩のところどころに散りばめられたローマ字が香港やシンガポールあたりの異国を感じさせますが、実のところ舞台は北原白秋の故郷の筑後柳川、彼の詩集「思い出」の中のサブセクション「柳河風俗詩」から取られた詩ばかり5編を集めています。ローマ字表記になっているものはすべてこの柳川の方言。恐らくは白秋が訛り方のニュアンスを強調したいがためにあえてローマ字表記にしたのではないかと思います。歌曲集のタイトルにもなっているAIYANというのは下女や子守り女のこと、第3曲目が歌曲集と同じタイトルの歌ですね。そしてこの第1曲目のタイトルであるNOSKAIというのは遊女のこと。同じ白秋の民謡詩集「日本の笛」の中の「矢部のやん七」(深井史郎の付けた曲を先日取り上げております)の中では華魁という漢字を当てておりますので、遊女といっても格の高い花魁(おいらん)なのでしょう。
夏の夕涼みをしている華やかな浴衣を着た美女の姿を私はイメージしました。
この歌曲集(1922)が、耕筰が白秋の詩にメロディをつけた一番最初の作品になるのだそうです。
音楽は山田耕筰の名曲「ぺいちか(ペチカ)」を思わせるメロディ(とくに冒頭部は全くメロディ進行が一緒です)。ピアノが淡々とリズムを刻む中、この流麗なメロディが流れていくのはなかなか印象的です。
( 2010.11.07 藤井宏行 )