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Singet nicht in Trauertönen   Op.98-7  
  Lieder Und Gesänge Aus Wilhelm Meister
悲しい響きで歌ったりしないで  
     ヴィルヘルム・マイスターよりの歌曲と歌

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Wilhelm Meisters Lehrjahre (ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 1796) Vol.5 Ch.10 Singet nicht in Trauertönen

曲: シューマン,ロベルト (Robert Alexander Schumann,1810-1856) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Singet nicht in Trauertönen
Von der Einsamkeit der Nacht.
Nein,sie ist,o holde Schönen,
Zur Geselligkeit gemacht.

Wie das Weib dem Mann gegeben
Als die schönste Hälfte war,
Ist die Nacht das halbe Leben
Und die schönste Hälfte zwar.

Könnt ihr euch des Tages freuen,
Der nur Freuden unterbricht?
Er ist gut,sich zu zerstreuen;
Zu was anderm taugt er nicht.

Aber wenn in nächt'ger Stunde
Süßer Lampe Dämmrung fließt.
Und vom Mund zum nahen Munde
Scherz und Liebe sich ergießt,

Wenn der rasche lose Knabe,
Der sonst wild und feurig eilt,
Oft bei einer kleinen Gabe
Unter leichten Spielen weilt

Wenn die Nachtigall Verliebten
Liebevoll ein Liedchen singt,
Das Gefangnen und Betrübten
Nur wie Ach und Wehe klingt:

Mit wie leichtem Herzensregen
Horchet ihr der Glocke nicht,
Die mit zwölf bedächtgen Schlägen
Ruh und Sicherheit verspricht.

Darum an dem langen Tage,
Merke dir es,liebe Brust;
Jeder Tag hat seine Plage,
Und die Nacht hat ihre Lust.

悲しい響きで歌ったりしないで
夜に独りじゃ寂しいなんて
ダメよ、夜はね、ステキな美人さんたち
みんなで騒ぐためにあるんだから

ちょうど女性が男性に与えられたように
最良のパートナーとしてね
夜は人生のパートナーなのよ
それも一番のパートナー

あなたたちは昼間に楽しく過ごせるのかしら
喜びを邪魔してるだけの昼に
気晴らしくらいならいいけれど
他には何もいいことはないでしょ

けれど夜の時間に
ランプの甘い火影が洩れて
くちびるからすぐ近くのくちびるへと
たわむれと愛とが注がれていく時や

せわしなく浮気なキュービッドは
いつもは激しく、大胆に急ぎまわってるのに
ちょっとした贈り物で時々
ささやかな戯れに浸り込んだりする時

ナイチンゲールが恋する人たちに
愛をこめて歌を歌ったりする時
たとえそれが囚われ人や悲しみにくれる人には
嘆きの声にしかきこえなくても

そんなときには軽やかな胸の鼓動で
だれも鐘の音は聞こえないの
十二時のおごそかな鐘が
安らぎと憩いを約束することを知らせても

だから長い昼の間には
このことを覚えておいてね、愛しい胸よ
毎日 何かしらつらいことがあっても
夜には喜びがあるのよ


この世の不幸を背負って歌われる竪琴弾きの歌とミニヨンの歌の中にあって、この歌だけはヴィルヘルムが惹かれた旅一座の女優フィリーネの、人生の喜びを存分に肯定した華やかな歌です。
この歌が出てくるのは第五巻第十章。旅役者の一座が「ハムレット」を上演するその前夜。ハムレット役を務めるヴィルヘルムはじめ一同が真剣な稽古に疲れて今や休もうかとしたときに、陽気なフィリーネは彼らの真面目さをからかうかのように愛らしくこの歌を歌い出すのです。
軽やかでコケティッシュなこの歌、シューマンの歌曲としては珍しい雰囲気でなかなか素敵なのですが、一連のミニヨンの歌とはあまりに異質だからでしょうか、ミニヨンの歌ほどには取り上げられることはなくあまり知られることのない歌となってしまっています。
シューマンはこの詩のうちで、第2節「ちょうど女性が男性に与えられたように」は省略しています。Hälfteは半分ということですから「パートナー」と訳すのは意訳に過ぎるかも知れませんがご容赦を。
あと「キューピッド」と訳したKnabeも「少年」という意味ですが、ここでは多くの訳がこれを愛の神アモール(キューピッド)と解しているようですのでそれに従いました。

( 2010.10.10 藤井宏行 )


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