花ものがたり |
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詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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日本音楽集団という邦楽器のアンサンブルに多数の魅力的な作品を提供し、歌座というオペラアンサンブルでやはり日本的な土壌に根差した舞台作品を作り上げている三木稔氏の声楽作品も、日本歌曲という視点でもやはりしっかり注目しておく価値があると思います。
氏の作品では工藤直子さんの詩がほのぼのと楽しい歌曲集「のはらうた」(「むぎむぎおんど?<むぎれんざぶろう>?」とか「やまのこもりうた?<こぐまきょうこ>?」といった面々が登場、CamerataにCDがあります)も捨て難いのですが、もう少し精緻に美しいこの作品が鮫島有美子さんの入れた日本歌曲選集3で初めて聴けたものですからこちらを紹介します。
この作品、白梅、寒椿、藤舞、紫陽花、馬鈴しょの花、さつまいもの花、ダリヤなど四季折々の日本の花を愛でた全部で14曲からなる歌曲集、残念ながら鮫島さんの録音ではそのうち「白梅」「藤舞」「馬鈴しょの花」「ほうずきの花」「おだまきの花」の5曲しか収録されておりませんが、そのいずれもが息を呑むような美しい日本の情緒に溢れています。
「いろはにほへど ちりぬるを」の有名な和歌を織り込んで、沈み込むような長唄を思わせるメロディーの「白梅」
「風になびく 藤の花」という詩そのままに流れるように流麗な「藤舞」
追分調の非常にゆったりしたメロディーで「馬鈴しょの 花咲く頃と なりにけり君もこの花 好きたまうらん」としみじみ余韻を持って終わる「馬鈴しょの花」
軽快できらめくような急の部分と中間の慈しむようにほうずきの描写をする緩の部分の対比が美しい「ほうずきの花」
「しずやしず しずのおだまき くり返し むかしを今に なすよしもがな吉野山 峰の白雪 踏み分けて 入りにし人の あとぞ恋しき」と静御前の悲恋の歌をやはり印象的に織り込んで、源平の昔に思いを馳せる「おだまきの花」
さすが邦楽と洋楽の接点で仕事をされている三木氏だけあって、日本的情緒の表出と西洋楽器やベルカント的発声との間にある違和感を見事に解消して、とかく西洋音楽で日本を描く時に出てくる安っぽくてキッチュな感じがほとんど感じられないのは素晴らしいです。そういえば氏のオペラのいくつかは西欧のオペラハウスであちらの言葉で上演されたりもしていましたっけ。私はオペラ「じょうるり」の道行の部分をちらっと映像で見たことがありますが、結構サマになって美しい舞台だったと思います。
(少なくとも日本人がウエストサイドストーリーを演じるくらいの異文化の消化はできていたかと...)
この「花ものがたり」、ぜひ全曲通して聴いてみたいと思える魅力的な作品でありました。
( 2003.01.01 藤井宏行 )