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The Encounter    
  The Land of Lost Content
遭遇  
     失われた満足の地

詩: ハウスマン (Alfred Edward Housman,1859-1936) イングランド
    A Shropshire Lad 22 The street sounds to the soldiers' tread

曲: アイアランド (John Ireland,1879-1962) イギリス   歌詞言語: 英語


The street sounds to the soldiers' tread,
And out we troop to see:
A single redcoat turns his head,
He turns and looks at me.

My man,from sky to sky's so far,
We never crossed before;
Such leagues apart the world's ends are.
We're like to meet no more;

What thought at heart have you and I
We cannot stop to tell;
But dead or living,drunk or dry,
Soldier,I wish you well.

通りで兵士たちの行進の音がする
ぼくらは兵士を見に外に出る
ひとりの赤いコートの兵士が振り返る
振り返ってぼくを見る

君よ、この空はあまりにも広いから
君にかつて出会ったことはないだろう
そして世界の端と端はとても離れているから
ぼくらは二度と会うことはないだろう

君とぼくが心の底で何を思うにしても
ぼくらは言わずにはいられない
だが、生きるにせよ死ぬにせよ、酔いつぶれても渇いても
兵士よ、君に幸あれ


色鮮やかな、大変視覚的な詩です。以前同じ詩をサマヴェルが取り上げて歌曲にしたものをご紹介した時に書いた文章が気に入っておりますので、ここにも載せましょう。アイアランドの音楽は淡々と流れて行き、私がこの詩に感じたようなドラマがなかったのが残念ですが、それでも印象深い曲です。

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言葉は全く交わしてはいないのですが、そしてもう二度と出会うことはないだろうと思っているのですが、袖触れ合うも他生の縁といいますかそんな感じの運命的なめぐり合いと心の通い合い。赤いコートを着た若い兵士がほんの一瞬だけ振り返ってまた行進に戻る...ドラマのワンシーンのような鮮烈な映像が私は目に浮かびました。
戦後生まれの私たちは幸いなことに出征兵士を見送る、あるいは自分が見送られるという体験をしたことがありませんから何となく読み流して(聴き流して)しまうのですけれども、ここで作者がふと目を合わせた兵士はもしかしたら明日には戦地に赴き、そして二度と帰ってこないかもしれない。まだ若い彼らがそんな運命に身を投じているという状況にあって、恐らくこの兵士と同世代の作者がここで言いたかったことを推し量るととても重いものがあります。例えて言えば自分の高校時代のクラスメートがどんどん戦場へと出征し、そして命を落としているというような状況の中で自分が見送る側にいることを想像してみてください。決してこれから海外旅行にいく人を「元気で行ってこいよ」ってな感じで励ましているようなものではないことはお分かりでしょう。イラクやカンボジアの戦争地帯の近くに行かれた警察や自衛隊の方々を送った経験のある人たちにはこの感慨は理解できるのかとも思いますが、それでも戦争で人が何百人も何千人もが短い期間で死んでいくようなところに直接飛び込んでいったわけではないので、先の戦争で出征兵士を送った時のような気持ちとまでは行かなかったのだろうな、と思います。まして身近にそういう人を持ったことのない私には正直言いまして想像力で補おうとしても補い切れませんでした。それだけにハウスマンの書いたこの詩(「シュロプシャーの若者」の22番目の詩です)は初めて見たときからなぜか心に残っているのです。
第一次世界大戦当時のイギリスの若者に愛読されたというこの詩集、こんな感じの詩が他にもたくさんあります。これは愛国心とかいうものとは違って、若者たちの純真さの表れなのでしょう。醜く弛み切った年寄りになって生きながらえるよりは美しく短い命を燃やした方がいい。そういう密度の濃い生き方ができている、あるいはそれを目指している若者たちに対するエールのようなものをこの詩をはじめとするいくつかの詩で特に感じます。
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( 2010.07.31 藤井宏行 )


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