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Zimnij vecher   Op.13-1  
  Dva stichotvoreniia
冬の夕べ  
     2つの詩

詩: プーシキン (Aleksandr Sergeyevich Pushkin,1799-1837) ロシア
      Зимний вечер (1825)

曲: メトネル (Nikolay Karlovich Medtner,1880-1951) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Burja mgloju nebo kroet,
Vikhri snezhnye krutja;
To,kak zver’,ona zavoet,
To zaplachet,kak ditja,
To po krovle obvetshaloj
Vdrug solomoj zashumit,
To,kak putnik zapozdalyj,
K nam v okoshko zastuchit.

Nasha vetkhaja lachuzhka
I pechal’na,i temna;
Chto zhe ty,moja starushka,
Priumolkla u okna?
Ili buri zavyvan’em
Ty,moj drug,utomlena,
Ili dremlesh’ pod zhuzhzhan’e
Svoego veretena?

Vyp’em,dobraja podruzhka
Bednoj junosti moej,
Vyp’em s gorja,gde zhe kruzhka?
Serdtsu budet veselej.
Spoj mne pesnju,kak sinitsa
Tikho za morem zhila;
Spoj mne pesnju,kak devitsa
Za vodoj poutru shla.

Burja mgloju nebo kroet,
Vikhri snezhnye krutja;
To,kak zver’,ona zavoet,
To zaplachet,kak ditja,
Vyp’em,dobraja podruzhka
Bednoj junosti moej,
Vyp’em s gorja,gde zhe kruzhka?
Serdtsu budet veselej!

雪嵐が暗い空を吹き抜ける
雪煙を巻き上げながら
野獣のように唸るかと思えば
子供のように泣き叫ぶ
家の屋根の剥がれかけた藁を
ざわざわと鳴らし
道に迷った旅人のように
窓を叩く

このあばら家も
暗闇の中で悲しみに沈む
愛しいばあやよ、なんだってじっと黙って
窓辺に座っているんだい?
うるさい雪嵐に
すっかり参ってしまったのかい。
それとも糸紡ぎ車の音に
ついうたた寝してしまったのか?

さあ、ばあや、ちょっと飲もうじゃないか
若い時のつらい思い出を肴にして
悲しみを酒に沈めてしまえ マグはどこだい?
楽しもうじゃないか
遠くの海に住むという
ヤマガラの歌を歌ってくれないか
歌ってくれないか 娘の歌を
朝、水汲みにいく娘の歌を

雪嵐が暗い空を吹き抜ける
雪煙を巻き上げながら
野獣のように唸るかと思えば
子供のように泣き叫ぶ
さあ、ばあや、ちょっと飲もうじゃないか
若い時のつらい思い出を肴にして
悲しみを酒に沈めてしまえ
マグはどこだい。楽しもうじゃないか

最近、ピアノ曲の世界では注目を集めつつあるメトネルですが、私はそんなにたくさんの作品を聴いた訳でもないにも関わらず、彼をチャイコフスキー・ラフマニノフの流れをくむロシアン・ロマンス(歌曲)の継承者と呼ぶのにためらいはありません。とにかくロシアの歌心が満開の美しい曲ばかりで、溜息もののメロディにいろいろ出会うことができます。
ここに取り上げた曲は、第一印象はシューベルトの「冬の旅」の4曲目「かじかみ」にソックリなのですが、もっと厳しい(に違いない)ロシアの冬を印象的に描写していますし、ロシア流のコブシ(泣き)にも欠けていません。その上うってつけなことに詩はといえば老夫婦の愛情を細やかに描写したこれまた味のあるものなので、特に中間部で「歌を歌ってくれないか」のところで、遠い昔を懐かしむように長調に転調して夢見るような旋律を歌うところなど白眉です。
CDはこれまた、Russian Discのドルハノヴァ盤しか聴いていないのですが、彼の作品が再評価されつつある今、探せばまだ見つかりそうです。 ドルハノヴァのメゾソプラノも貫禄十分で良いのですが、こんな曲こそ渋い男声で聴いてみたいものです。

(1999.05.02 藤井宏行)

と、初めて聴いたときは詩の書かれた背景など全く知りませんでしたので、寒村における老夫婦の情愛あふれる夕べの情景かと思って訳していたのですが、プーシキンのことをいろいろ調べてみるとこの詩は彼が母親の領地・北ロシアの寂しい寒村ミハイロフスコエに幽閉されていたときに、それに付き従ってくれた忠実な乳母のことを描いた詩であることを知りました。
まあ最初の印象で訳したものにも愛着はありますが、明らかな誤訳もありましたのでちょっと手を入れることにしました。
ばあやに小さいころ語ってもらったお話をまた聞かせてもらいながら、暗く寂しい雪嵐の夜を静かに過ごすという情景のようです。メトネルの曲は上で聴いた印象が5年以上経って再聴しても全く変わりません。ロシアの冬を描写した音楽として一級品だと私は思いました。

( 2006.02.13 藤井宏行 )


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