Rêves M.79 |
夢 |
Un enfant court Autour des marbres Une voix sourd Des hauts parages Les yeux si graves De ceux qui t'aiment Songent et passent Entre les arbres.. Aux grandes orgues De quelque gare Grande la vague Des vieux départs.. Dans un vieux rêve Au pays vague Des choses brèves Qui meurent sages. |
ひとりのちいさな子供が 大理石像の周りに 声なき声は 近くの高みに とても真面目な瞳 お前を愛する者たちの瞳は 夢見つつ通り過ぎる 木々の間を 巨大なオルガン どこかの駅の 押し寄せる大波 古い出発の 古い夢の中 曖昧な国では 束の間の物たちが 賢く死んでゆく |
サティの歌曲作品にしばしば名前の見える象徴派詩人のレオン・ポール・ファルグ(1878-1947)は、音楽史的にはラヴェルの友人としての方が重要?でしょうか。確かにラヴェル的な感性に良く合った詩を書く人のように思います。ところがもともと作品の数の少ないラヴェルのこと。彼の詩にメロディをつけた歌曲作品は1927年に書かれたこの曲だけです。詩は象徴主義の面目躍如といったところでしょうか、一見つながりのなさそうな言葉を連ねて夢の非現実な姿を見事に描写しております。この手の幻想的な詩ですと凡百の作曲家であれば無調の掴みどころのないメロディをつけてわけの分からない歌にしてしまうところ、ラヴェルは非常に明確な、古典的とさえ言えるメロディで耳に優しくこの歌を描き出します。もちろん伴奏のピアノは斬新な響きを次々と繰り出してきて、この曲を単なる古典の模倣作品に留めてはおりません。
中間部でピアノが違う調性のメロディを響かせているところなどは古典的佇まいの中に超現代の響きが重なり合って、まさに夢の中の世界を紡ぎだしているかのよう。あまり取り上げられない曲ですが、まぎれもないラヴェルの傑作歌曲だと思います。
( 2009.09.09 藤井宏行 )