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Le Cygne   M.50  
  Histoires naturelles
白鳥  
     博物誌

詩: ルナール (Jules Renard,1864-1910) フランス
    Histoires naturelles  Le Cygne

曲: ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937) フランス   歌詞言語: フランス語


Il glisse sur le bassin,comme un traîneau blanc,de nuage en nuage.
Car il n'a faim que des nuages floconneux qu'il voit naître,bouger,et se perdre dans l'eau.

C'est l'un d'eux qu'il désire. Il le vise du bec,
et il plonge tout à coup son col vêtu de neige.

Puis,tel un bras de femme sort d'une manche,il retire.

Il n'a rien.

Il regarde : les nuages effarouchés ont disparu.

Il ne reste qu'un instant désabusé,car les nuages tardent peu à revenir,et,
là-bas,où meurent les ondulations de l'eau,en voici un qui se reforme.

Doucement,sur son léger coussin de plumes,le cygne rame et s'approche...

Il s'épuise à pêcher de vains reflets,et peut-être qu'il mourra,
victime de cette illusion,avant d'attraper un seul morceau de nuage.

Mais qu'est-ce que je dis ?

Chaque fois qu'il plonge,il fouille du bec la vase nourrissante et ramène un ver.

Il engraisse comme une oie.

彼は水面を滑って行く、まるで白い橇が雲から雲へ渡って行くように。
なぜなら彼が食欲を感じるのは、立ち昇り、漂い、水の中へと消えて行く綿雲だけだからだ

それこそが彼の望んでいる一切れなのだ。彼はくちばしで狙いをつけ、
突然その雪のように装った頸を沈める。

それから、袖口から現れる女の腕のように、彼は頸を引き出す

何も取れなかった

彼は眺める:雲はおびえて姿を消してしまったのだ

がっかりする瞬間はそう長くはない、なぜなら雲たちはゆっくりと元に戻るのだから、
そして、あそこ、水の小波が静まったところ、そこに別の雲が現れる

ゆっくりと、軽やかな羽のクッションに乗って、白鳥は漕ぎながら近付いてゆく

彼はむなしい幻を捕まえることに疲れ果て、そしてたぶん死んでしまうだろう、
その幻の犠牲となるのだ、雲のほんのひときれを捕まえる前に。

おい、私は何を言ってるんだ?

彼は潜るたびに、くちばしで栄養のある泥をほじくり 虫を一匹くわえてくる

彼はガチョウのように太るのだ


夢見るようなピアノのアルペジオに乗せて静かに歌われる歌。池の上を静かに泳いでいる白鳥の描写としてこれ以上見事なものはないと思えるくらいこれは美しいです。このラヴェルの「博物誌」、どの曲もピアノ伴奏が雄弁ですが、その中でもこれは白眉と言っても良いのではないでしょうか。水面に映った白雲が乱れて消えるところの音楽も絶妙。そんな美しさを最後のどんでん返しでぶち壊しにするところもまたラヴェルの面目躍如といったところでしょうか。今までの優雅さはどこへやら、早口で吐き捨てるように現実を語るところには笑ってしまいます。前後の曲想のギャップがすごいので。

( 2009.09.10 藤井宏行 )


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