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Le Paon   M.50  
  Histoires naturelles
クジャク  
     博物誌

詩: ルナール (Jules Renard,1864-1910) フランス
    Histoires naturelles  Le Paon

曲: ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937) フランス   歌詞言語: フランス語


Il va sûrement se marier aujourd'hui.

Ce devait être pour hier. En habit de gala,il était prêt.

Il n'attendait que sa fiancée. Elle n'est pas venue. Elle ne peut tarder.

Glorieux,il se promène avec une allure de prince indien
et porte sur lui les riches présents d'usage.

L'amour avive l'éclat de ses couleurs et son aigrette tremble comme une lyre.

La fiancée n'arrive pas.

Il monte au haut du toit et regarde du côté du soleil.

Il jette son cri diabolique :

Léon ! Léon !

C'est ainsi qu'il appelle sa fiancée. Il ne voit rien venir et personne ne répond.
Les volailles habituées ne lèvent même point la tête.
Elles sont lasses de l'admirer.
Il redescend dans la cour,si sûr d'être beau qu'il est incapable de rancune.

Son mariage sera pour demain.

Et,ne sachant que faire du reste de la journée,il se dirige vers le perron.
Il gravit les marches,comme des marches de temple,d'un pas officiel.

Il relève sa robe à queue toute lourde des yeux qui n'ont pu se détacher d'elle.

Il répète encore une fois la cérémonie.

今日こそ間違いなく婚礼の式のはずだ

それは昨日のはずだった。着飾って、彼は準備していたのだ

彼は花嫁だけを待っていた。彼女は来なかった。遅れるはずがないのに。

意気揚々と、彼はインドの王子のような足取りで歩き回り 
豪華な贈り物を身に着けて持ち運ぶ。

愛する心がその色彩のまばゆさを高め 頭の毛は竪琴のように震えている。

花嫁はやってこない。

彼は屋根のてっぺんに登り 太陽の方を見つめる。

彼は悪魔の叫びを投げつける。

レオン! レオン!

こんな風に彼は花嫁を呼ぶのだ。だが誰もやってこないし誰も返事をしない。
家禽たちも慣れっこになって頭を上げようとすらしない。
彼らも感嘆するのに飽き飽きしているのだ。
彼は庭へと降りてくる、自分が美しいと確信しているので腹を立てることすらしないのだ。

彼の婚礼は明日に延びるだろう。

そこで今日の残りをどのように過ごすか分からずに、彼は玄関の方へと歩いてゆく。
そして階段を上ってゆくのだ、まるで神殿の階段のように、正式なステップで。

彼は婚礼衣装を持ち上げる その裾はもはや取れなくなった目玉でとても重くなっている

彼はそのセレモニーをもう一回繰り返す。


現代のもっと激しい前衛音楽に慣れた耳からするとこのラヴェルの作品、確かにところどころ棘はあるものの総体としては抒情味あふれるとても優美な作品だと思えるのですが、この曲が書かれた1906年と言う時期を考えるとやはりあまりに先鋭に過ぎたのでしょうか。初演は野次と怒号で歌手(ジャーヌ・バトリ)が最後まで歌えないほど荒れたのだといいます。確かに歌というよりはピアノ伴奏付きの一人芝居といった感じのするこの曲、「なんじゃこりゃ?」と思ってしまう人も多いのでしょうね。「博物誌」の作者であり、「にんじん」など多くの小説で今でも有名なジュール・ルナールも初演を聴いて???だったようです。ルナールの日記に1907年1月の初演のときの作曲者とのやり取りが残されていますが、あまりコミュニケーションにはなっていなかったようです。20世紀初頭のフランス歌曲を見渡したときに、ルナールのこんな詩(と呼んで良いのでしょうか?)に音楽を付けようと思い至るだけでも信じられない斬新さであったのは間違いないでしょう。
第1曲の冒頭、ラヴェル晩年の傑作「左手のためのピアノ協奏曲」の第一楽章導入部を思わせるようなピアノの低音のゆったりとした、しかし湧き上がるような響きに乗せて上品な歌声で、インドの王子のように上品に歩く孔雀の姿が歌いだされます。「花嫁はやってこない」のあとの一瞬の間の取り方に微笑させられたのも束の間、音楽のフォームは突如として崩れて、この孔雀の悪魔のような声「レオン!」がここぞとばかり強調されます。そんなグロテスクさ、いつの間にかまた冒頭の上品さに戻って、そして音楽は終わります。恐らく明日もその次の日も今日と同じことが繰り返されるんだぞ、と言わんばかりに...
「レオン」の叫びがあまりに強烈だったので、私は今までそこの部分の声しか印象に残っていなかったのですが、こうしてじっくりと聴きこんでみるとピアノの全体的な雄弁さもこの曲の聴きものです。これはこの歌曲集全体に通じる美質のひとつではありますが。

( 2009.09.10 藤井宏行 )


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