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Deh,pietoso,oh Addolorata    
  6 romanze
どうぞ 哀れみを おお 悲しみの聖母さま  
     6つのロマンツェ(1838)

詩: バレストラ (Luigi Balestra,1808-1863) イタリア
      Ach neige,Du Schmerzenreiche 原詩: Johann Wolfgang von Goethe ゲーテ,Faust Teil 1(ファウスト 第1部)

曲: ヴェルディ (Giuseppe Verdi,1813-1901) イタリア   歌詞言語: イタリア語


Deh,pietoso,oh Addolorata,
China il guardo al mio dolore;
Tu,una spada fitta in core,
Volgi gl'occhi desolata
Al morente tuo figliuol.
Quelle occhiate,i sospir vanno
Lassù al padre e son preghiera
Che il suo tempri ed il tuo affanno.

Come a me squarcin le viscere
Gl'insoffribili miei guai
E dell'ansio petto i palpiti
Chi comprendere può mai?
Di che trema il cor? Che vuol?
Ah! tu sola il sai,tu sol!

Sempre,ovunque il passo io giro,
Qual martiro,qual martiro
Qui nel sen porto con me!
Solitaria appena,oh,quanto
Verso allora,oh,quanto pianto
E di dentro scoppia il cor.

Sul vasel del finestrino
La mia la crima scendea
Quando all'alba del mattino
Questi fior per te cogliea,
Chè del sole il primo raggio
La mia stanza rischiarava
E dal letto mi cacciava
Agitandomi il dolor.

Ah,per te dal disonore,
Dalla morte io sia salvata.
Deh,pietoso al mio dololre
China il guardo,oh Addolorata!

どうか、哀れみを、おお 悲しみの聖母さま
私の悲しみにまなざしを向けてください
御身は、剣に胸に突き立てられて
悲嘆にくれたそのお眼を向けられています
死を召されし御身の御子に
そのまなざし、その溜息は向かって行きます
天なる父のもとへ そして祈りにより
天なる父は御子を救い 御身の苦しみを和らげるでしょう

どれほどに私は心が引き裂かれているというのでしょう
この耐え難い私の苦悩に
そしてこの震える不安に満ちた胸
誰が分かってくれるというのでしょう?
なにゆえに胸は震え、何を心は求めるのか
ああ、御身だけがそれをご存知なのです。

いつも、どこへ足が向かおうと
何という苦しみを、何という苦しみを
私はこの胸の中に抱いているというのでしょう!
ひとりになればすぐ、ああ、どれほどに
流すというのでしょう、ああ、どれだけの涙を
そして私の中で心臓は張り裂けるのです

小窓のところにある鉢の中に
私の涙がこぼれ落ちました
朝 夜明けの時に
御身がためにこの花を折り取った時
それは太陽が最初の光で
私の部屋を再び照らし
ベッドから私を追い立てたからでした
私の悲しみを掻き立てながら

ああ、御身によりこの不名誉から
死から私が救われますように
どうぞ 哀れみを おお 悲しみの聖母さま
私の悲しみにまなざしを向けてください


ゲーテの大作「ファウスト」の第一部から。清楚だった娘グレートヒェンがファウストと恋に落ち、あまつさえ婚前交渉がご法度の世において彼の子供を身ごもってしまうという大変な状況において、乱れる心を目の前の受苦聖母像に訴えます。シューベルトやレーヴェなどドイツの作曲家が歌曲にしているこの詞に、若きヴェルディもまた素晴らしい音楽をつけています。彼の書いた初期の歌曲集6つのロマンツェ(1838)にはこの詩と、シューベルトの付けた曲で有名な「糸を紡ぐグレートヒェン」と同じ詩につけた2つの歌曲がファウストより書かれているのですが、ルイジ・バレストラ(Luigi Balestra)によるイタリア語訳の詩に付けられているだけあって、そのいずれもが実に見事なオペラ・アリア様の音楽になっているのです。私はこれら2曲を聴くたびに「どうしてヴェルディはこのファウストを題材にオペラを書かなかったのだろう?」と大変残念な気持ちにいつもさせられます。それだけ魅惑に満ちた歌たちなのですが、とりわけこちらの曲の方は絶品とも言えるヴェルディの美質に溢れていていつも聴くたびに私は痺れてしまいます。グレートヒェンの気持ちの揺らぎに応じてくるくると表情を変える音楽、ヴェルディお得意のドロドロに暗いメロディがパッと明るくも力強く変わって聴き手にカタルシスを与える手法がこの曲でも使われていて、ちょうどこの曲の後半「小窓のところにある鉢の中に」のところからのあまりに美しいメロディは、たとえやり過ぎであったにしても忘れ難い魅力。これがオペラの中のアリアであったなら確実にヴェルディの作品の中でも屈指の人気作品になったのではと思われるほどなのですが、不幸にもあまりに軽視されているイタリア近代歌曲の中に押し込められてしまっているがためにあまり世に知られることなく埋もれてしまっています。
ゲーテの「ファウスト」自体をこんなに濃密なソープオペラみたいにして良いのかという疑問を持たれる方も居られるかも知れませんが、少なくとも「ファウスト」第一部のオペラ化で最も成功したフランスのグノーのもの(これも美しいメロディに満ちたソープオペラ様の作品と思います)がお好きな方はきっとこのイタリアの情熱的なグレートヒェンもきっと気に入って下さることでしょう。ぜひお聴きになってください。

( 2009.08.27 藤井宏行 )


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