Son Op.38-5 Shest’ stikhotvorenij |
夢 6つの詩 |
V mire net nichego Dozhdelennee sna, Chary est’ u nego, U nego tishina, U nego na ustakh Ni pechal’ i ni smekh, I v bezdonnykh ochakh Mnogo tajnykh utekh. U nego shiroki, Shiroki dva kryla, I legki,tak legki, Kak polnochnaja mgla. Ne ponjat’,kak neset, I kuda i na chem On krylom ne vzmakhnet I ne dvinet plechom. |
この世界には何もない 夢ほどに素晴らしいものは 夢は魔力を持ち 夢は静かである 夢のくちびるには 悲しみも 笑いもない そしてその底知れぬ瞳には たくさんの秘められた喜びがある 夢は持っている ふたつの大きな翼を 軽やかな、軽やかな まるで夜の闇のような翼を 誰も知らぬ、どうやって運ぶのか どこに 何を乗せて 夢は翼をはためかさないし 肩を震わせることもない |
ラフマニノフの歌曲「夢 Son」といえば、ハイネの詩につけた初期の作品Op.8-5が圧倒的に有名です。あの熱情あふれる望郷の思いの吐露にくらべると、この最後の歌曲集Op.38にある「夢」は、夢の中でぼんやりと夢想しているかのような静かな、そしてちょっと物憂さも感じさせるような作品となりました。ピアノ伴奏の濃密な響きはドビュッシーのそれを思わせ、歌と微妙に絡み合いながら不思議な雰囲気をかもしだしています。
( 2009.04.01 藤井宏行 )