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初恋    
  歌曲集「啄木に寄せて歌える」
 
    

詩: 石川啄木 (Ishikawa Takuboku,1886-1913) 日本
    一握の砂〜我を愛する歌 6 砂山の

曲: 越谷達之助 (Koshitani Tatsunosuke,1909-1982) 日本   歌詞言語: 日本語


砂山の砂に腹這ひ
初恋の
痛みを遠くおもひいづる日



おそらく啄木の短歌に付けた歌曲の中ではもっとも有名で、耳にする機会も非常に多い作品だと思いますが、作曲者についてはほとんど知られていないのではないでしょうか。私もよく知らなかったのでネットで色々検索してみましたが生没年すらよく分からない有り様。
いや、それにとどまらず名字の読みすら、「Koshigaya」「Koshiya」「Koshitani」の3つがひっかかってしまい混乱の極みです。

ようやく分かったのは氏が俳優や詩人としても活躍され、言葉に対する鋭い感性を持たれていたこと、戦後は青山学院の音楽の教壇に立たれていたことなどです。
(氏の弟子筋にあたるテノール歌手の青木純氏のサイトが一番詳しいかも http://www2.ttcn.ne.jp/~jun204/07.html )

この有名な「初恋」を含む歌曲集「啄木に寄せて歌える」は昭和13年(1938)の作曲、全部で15首の短歌に曲を付けているのだそうですが、「初恋」はその第一曲目にあたります(「一握の砂」より)。
私が見事だと思うのは、和歌のスタイルで作曲すると、冒頭で紹介したような57-5-77の切れ目になりますが、越谷作では「砂に」という言葉を1度だけ繰り返して

  砂山の砂に(8文字)
  砂に腹ばひ(7文字)
  初恋のいたみを(9文字)
  遠く思ひいづる日(10文字)

と、西洋歌曲のスタイルにもぴったりはまるかのような詩の形にしていることなのです。これがあまりに自然なので、今回短歌のスタイルに忠実な息継ぎをして作曲している清瀬保二作品を聴いて違和感を感じたほどなのです。

ついでに余談として思い出したのは、お隣韓国のクラシック歌曲がこんな雰囲気の美しい旋律を朗々と歌うようなものが多いことで、同じ極東の国として通じるところがあるのかも知れません。

( 2004.01.01 藤井宏行 )


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