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Ein Veilchen   K.476  
 
スミレ  
    

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Erwin und Elmire (エルヴィンとエルミーレ 1775)  Ein Veilchen (1773)

曲: モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart,1756-1791) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ein Veilchen auf der Wiese stand,
Gebückt in sich und unbekannt;
Es war ein herzigs Veilchen.
Da kam ein junge Schäferin
Mit leichtem Schritt und muntrem Sinn
Daher,daher,
Die Wiese her,und sang.

Ach! denkt das Veilchen,wär ich nur
Die schönste Blume der Natur,
Ach,nur ein kleines Weilchen,
Bis mich das Liebchen abgepflückt
Und an dem Busen matt gedrückt!
Ach nur,ach nur
Ein Viertelstündchen lang!

Ach! aber ach! das Mädchen kam
Und nicht in Acht das Veilchen nahm,
Ertrat das arme Veilchen.
Es sank und starb und freut' sich noch:
Und sterb ich denn,so sterb' ich doch
Durch sie,durch sie,
Zu ihren Füßen doch.

Das arme Veilchen!
Es war ein herzigs Veilchen.

一本のスミレが草原の上に咲いていた
身をちぢこめて誰に知られるでもなく
そいつは可愛いスミレだった
そこへやって来たのは若い羊飼いの娘
軽やかな足取りで元気一杯に
こちらへ こちらへ 
草原をこちらの方へ歌いながら

ああ、スミレは考えた もしもぼくが
この自然の中で一番きれいな花だったらなあ
ああ。そしてほんのわずかな間だけでも
ぼくをあのかわいこちゃんが摘んでくれて
あの胸に押し当ててくれる
ほんの ほんの
15分の時間だけでもあったらなあ と

ああ、なのにああ、その娘はやってきても
スミレにはちっとも気が付かず
哀れなスミレを踏み潰したのだ
スミレは倒れて死んでしまった、でも喜んでいた
これでぼくは死ぬけれど
あの子のせいで、あの子のせいで
死ぬんだからな!あの子の足元で

哀れなスミレよ
そいつは可愛いスミレだった


モーツアルトの歌曲についてよく言われるのは、シューベルトやシューマンのようにもっとたくさんの第一級の詩人の詩につけた歌曲があれば素晴らしかっただろうに、というないものねだりの物言いです。確かにこのゲーテの詩に唯一付けたこの「スミレ」の美しさと情景描写の巧みさを聴いていると、そういう気持ちを持たれる方が多いのも理解できるところもあります。この曲、そういうわけでかモーツアルトの歌曲の最高傑作としてよく挙げられますね。
ゲーテの原詩をご覧頂けるとおわかりかと思いますが、この詩のかたちは民謡風のつくりをして、単純に同じ旋律を繰り返して行くことを想定しています。従って他のドイツの作曲家のこの詩につけた曲はそういう素朴なものが多い中、モーツアルトのものだけはドラマの展開に応じてくるくると表情を変え、そしてそのすべてが見事に詩にはまった音楽となっているところが凄いです。楚々と立つスミレを描写する冒頭、陽気な娘が登場するところの軽快な調べ、そしてスミレの心の悩みを表わす悲しい響きとあえなくそれが踏みにじられる残酷なシーン、それにも関わらずスミレが喜びを歌う希望に満ちた音楽、どれも見事です。
そして最後に冒頭の歌のメロディが帰ってくる最後の2節はゲーテの原詩にはないようですが、モーツアルトのこの歌ではこれがあることにより歌曲として実に見事な幕切れとすることができました。確かに最高傑作と呼ばれてもおかしくないだけの充実感を示しています。1785年の6月に書かれた作品です。

( 2008.08.26 藤井宏行 )


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