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なんとなく    
 
 
    

詩: 石川啄木 (Ishikawa Takuboku,1886-1913) 日本
    悲しき玩具 38 何となく

曲: 清瀬保二 (Kiyose Yasuji,1900-1981) 日本   歌詞言語: 日本語


なんとなく
今年はよいこと
あるごとし
元日の朝
晴れて風なし



正月に打ってつけの内容の詩(短歌)に付けられた歌のご紹介でもって、今年も恒例の日本歌曲による新年のご挨拶とさせて頂きたいと思います。作曲者の清瀬保二は自主制作レーベルで紹介されることの多い根強いファンを持つ個性的な作曲家だと思いますが、その彼は石川啄木にハマって、彼の短歌に50曲もの歌を付けています。
ごてごてとした装飾を一切排した非常にシンプルな作りのこれら作品は、啄木の和歌に付けた歌曲の中では濃密な表情と美しい旋律で有名な越谷達之助作曲の「初恋」ほどのポピュラリティは得られないのかも知れませんが、噛み締めるほど味の出る作品ばかりだと思います。
(越谷作と同じ「砂山の砂にはらばい」に付けた曲も清瀬にはありますが、こちらも至極あっさりした、しかし言葉の味わいをたいへん大事にした作品です)
Naxosレーベルにある”Japanese Melodies”というフルートとハープの組み合わせで日本歌曲の有名どころ「この道」や「朧月夜」などを紹介しているCDで、この清瀬保二の歌を5曲も取り上げているのはなかなかの見識ではないかと思います。しかもこの歌「なんとなく」を、お正月の定番として知られる宮城道雄の「春の海」のフルートとハープによる熱演の直後に収録するというセンスの良さ。ベルギーの演奏家たち(グローウェルスのフルート、プロキュルールのハープ、メンデルスゾーンのヴィオラ)の好演も素晴らしいですが、歌で参加するソプラノの正木裕子の熱唱もあいまって素晴らしい日本歌曲のアンソロジーとなっています。特にフルートの味が絶妙。尺八や篠笛の雰囲気を醸し出しつつも、フルートの持つ輝かしい音色も失われていません。
清瀬保二のもうひとつの名曲「笛」(詩:竹友藻風)での声とフルートの絶妙な掛け合いが素敵で、これと「春の海」を聴くためだけでも持っておく価値はあると思います。
外国の方へのプレゼントなどにも好適なCDではないかと。

その他の清瀬作品は3曲とも啄木の詩、

  砂山の砂に腹這い初恋の痛みを遠くおもいいづる日
  東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたわむる
  さらさらと氷の屑が波に鳴る磯の月夜のゆきかへりかな

と、かなり有名なところがそろっています。
ハープの伴奏が素晴らしく、とくに「さらさらと」はとても印象に残る編曲です。

( 2004.01.01 藤井宏行 )


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