Heimweh Op.15-1 Japanische Blatter |
郷愁(大伴家持) 16葉の日本の詩 |
Wenn sich der Abend niedersenkt und Nebel Eintönig wallen übers graue Meer, Und wenn die Kraniche mit müder Stimme Ins Dunkel rufen,traurig anzuhören,-- Dann denk ich meiner Heimat,schmerzdurchweht. |
海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ 夕闇がせまり、霧が 静かに灰色の海の上に立ち込めるとき そして鶴たちが眠たげな声で 暗闇の中を呼ぶのを、悲しく聞くとき 私は故郷を想う、悲しみを振り払おうと |
オーストリアの現代作曲家アイネムには、16葉の日本の短歌(のドイツ語訳)に付けた歌曲があります。
詩はマーラーの「大地の歌」の李白・杜甫の訳詞で有名なハンス・ベートゲ、彼の訳した詩集「日本の春 」から取られています。彼はこれに限らずオリエンタルな詩をいろいろとドイツ語の詩にしていますが、「大地の歌」同様、訳というよりは原詩からイメージを膨らませて創作しているという感じです。
何より表題がお洒落...
1.郷愁(大伴家持:万葉集)
2.ひとりの友(凡河内躬恒:古今集)
3.憂鬱(凡河内躬恒:古今集)
4.夢(小野小町:古今集)
5.待ちわびて(磐姫皇后:万葉集)
6.重苦しい歌(大津皇子:万葉集)
7.ナイチンゲールへの想い(紀友則:古今集)
8.愛の告白(雄略天皇:万葉集)
9.今ひとたびでも(詠み人知らず:古今集)
10.悲しい心(清原深養父:古今集)
11.犬よ吠えないで(詠み人知らず:万葉集)
12.愛と死(詠み人知らず:古今集)
13.戯れに(詠み人知らず:18世紀)
14.あなたを愛してから(藤原敦忠:拾遺集)
15.孤独(柿本人麻呂:万葉集)
16.今一度(和泉式部:後拾遺集)
14・15・16番目の歌のように、小倉百人一首で有名な和歌でもこういう表題が付くとまるで別のイメージ、
しかも多くは31文字にこだわらず、情景を補ってもう少し長い詩の形にしています。
この第1曲は万葉集より。防人が遠く離れた故郷に想いを馳せている歌です。単調にぽつぽつと鳴るピアノに乗せてこちらもひそやかに淡々と歌われて行きます。最後の「故郷を」のところで少しだけ心の高ぶりが聴かれはしますけれども。
元歌がわかったものについてはそれと、ドイツ語から日本語に戻し訳したものを並べてみましたので、このベードゲの訳詩集の雰囲気がなんとなく感じられれば幸いです。
アイネム自身は日本とはこの曲の作曲当時(1951)縁もゆかりもなく、詩から得られたインスピレーションをそのまま音にしているようです。東洋情緒はかけらもなく、簡素なピアノ伴奏ともあいまって知的なたたずまいを示しています。
世界初録音となる松本美和子(Sop)、竹内祥子(Pf)の録音(Omagatoki)で16曲全部聴くことができます。イタリア歌曲を得意とする彼女の声は、こんなリリカルな曲では一層映えます。
ヘフリガーにもこのアイネムの曲は録音があるようですが抜粋です。味わい深い歌唱だけに残念。
( 2004.01.18 藤井宏行 )