Wonne der Wehmut Op.83-1 Drei Gesänge von Goethe |
悲しみの喜び ゲーテによる3つの歌曲 |
Trocknet nicht,trocknet nicht, Tränen der ewigen Liebe! Ach,nur dem halbgetrockneten Auge Wie öde,wie tot die Welt ihm erscheint! Trocknet nicht,trocknet nicht Tränen unglücklicher Liebe! |
乾かないでくれ。乾かないでくれ 永遠の愛の涙よ! ああ、この半分乾いてしまった眼にさえも 何と荒涼とし、何と死に果ててこの世界は映ってしまうのか! 乾かないでくれ。乾かないでくれ 不幸な愛の涙よ! |
1810年に作曲された作品83の3曲からなる歌曲集はすべてゲーテの詩に付けたもの。同時代のライヒャルトやツェルター、あるいはのちのシューベルトやヴォルフ、シェックなどの作曲家も取り上げたゲーテ若き日の抒情味の濃い詩を3篇選んで曲を付けています。中でもこの第1曲が非常に短いですが傑作として人気が高く、よく取り上げられるでしょうか。
歌曲としてのタイトルとしては「悲しみの喜び」というなんだか良く意味が分からない直訳が普通のようですが、私なりにこの対立する言葉の関係を考察してみますと、「悲哀に浸ることの楽しさ」とでも言いますか、ちょっとマゾの気も感じられるような心情に行き当たります。
おそらくこの主人公、失恋をして涙を流しているのだと思いますが、自分の身のその不幸を嘆くこと自体に快感を覚えてきているのでしょう。あなたもきっと覚えがありますよね。なんだか泣いているうちに自分が悲劇のヒロイン(ヒーロー)になったような気がしてきてしまうことが。そうなってくると段々と涙が枯れてきて冷静になってくることに対して物足りなささえ覚えてきてしまう、できることならこの陶酔感にずっと浸っていたいという思い。「半分枯れた涙には世界が荒涼として映る」というのはそういう気持ちの現われだと思います。ゲーテのこのような人間観察の鋭さにはいつもさすが大詩人と唸らされるのですが、この見方からするとベートーヴェンの付けた曲は少々格調が高すぎるでしょうか。「ドーセあたし(俺)なんかダメな女よ(男なのさ)」と取り乱しつつ自分に酔っている光景がおそらくこの詩の本質ではないかと私などは思いますので。
しかしこの格調高くも美しいメロディは忘れがたく、詩への勘違いがあるのかも知れないにも関わらずこの曲を名曲として認めることに私も異論はございません。
( 2009.04.01 藤井宏行 )