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Bože dálný,nesmrtelný    
  Zápisník Zmizelého
彼方の神様、不滅なるお方よ  
     消えた男の日記

詩: カルダ (Ozef Kalda,1871-1921) チェコ
      

曲: ヤナーチェク (Leoš Janáček,1854-1928) チェコ   歌詞言語: チェコ語


Bože dálný,nesmrtelný,
proč's cigánu život dal?
By bez cíle blúdil světem,
štván byl jenom dál a dál?

Rozmilý Janíčku,
čuješ-li skřivánky?

  Smutná pešnička
  srdcem hýbala.

Přisedni si přeca
podlevá cigánky!

Bože mocný! Milosrdný!
Než v pustém světě zahynu,
daj mi poznat,daj mi cítit!

  Smutná pěsnička
  srdcem hýbala.

Pořád tady enom
jak solný slp stojíš,
všecko mi připadá,
že sa ty mne bojíš.

Přisedni si blížej,
ne tak zpovzdaleka,
či t'a moja barva
preca enom laká?

Nejsu já tak černá
jak sa ti uzdává,
gde nemože slnce,
jinší je postava!

  Košulku na prsoch
  krapečku shrnula,
  jemu sa všecka krev
  do hlavy vhrnula.

彼方の神様、不滅なるお方よ
なぜジプシーに命を与えたもうたのですか?
あてもなくこの世をさまよい,
遠くへ遠くへと追い立てられるためなのですか?

愛しいヤン、
ヒバリが鳴くのが聞こえるかしら?

  悲しみを湛えた歌は
  心を揺り動かした

さあお座りなさいよ
ジプシー娘のすぐ隣に!

おお全能の神様,慈悲深いお方よ!
この空しい世界を去る前に
私に御業を知らしめください、感じさせてください

  悲しみを湛えた歌は
  心を揺り動かした

あんたはずっとそこに
塩の柱のように立っているわね
本当にあたしのことが
あんたは怖くてしかたないのね

もっと近くに座ってよ
そんなに離れてないでさあ。
あたしの肌の色が
やはり怖いのかしら?

あたしそんなに黒くはないのよ,
あんたが思っているほどにはね。
陽に焼けていないところは,
全然違っているんだから

  彼女は下着の胸元を
  そっとまくった
  彼の全身の血は,
  頭へとのぼった


前の曲から切れ目なく続きますし、曲想もそんなに違いませんので別の曲とカウントしなくても良いくらいかも知れません。冒頭はヤンに聴かせているジプシーの歌。続くアルトと舞台裏の合唱との絡み合いは本当にとろけてしまいそう。そして最後の駄目押しはこれまた美しいピアノのメロディに乗せて女性合唱によって幻想的に歌われます。決して谷岡ヤスジ的な鼻血ブーの世界を予想してはなりません。もちろんそこで歌われている内容は谷岡ワールドそのものですが、それをこれほど美しい音楽に乗せてしまったヤナーチェクの凄さ...
ちなみに「下着」と訳したのは私のやりすぎで、恐らくこのKošulkuというのはブラウスのような民族衣装のようです。ウブな彼にはそれだけでもクラクラきてしまうところなのでしょう。あと「塩の柱」というのは旧約聖書に出てくるソドムの滅亡。ここから逃れようとしたロトの妻が、決して振り返るなという神様のいいつけを破って振り返ったために変わってしまった姿のことです。要は石膏像みたいに緊張でガチガチになっていたのですね。
ちなみにこの曲はアルトと女性合唱のかけあいで、テノールは全く歌いません。まさに目の前の凄い展開にアタマが真っ白になっていた、っていうようなところでしょうか...そしてこの衝撃的な歌詞を最後に女声合唱は姿を消します。

( 2008.10.10 藤井宏行 )


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