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Vítaj,Janíčku    
  Zápisník Zmizelého
ようこそ、ヤン  
     消えた男の日記

詩: カルダ (Ozef Kalda,1871-1921) チェコ
      

曲: ヤナーチェク (Leoš Janáček,1854-1928) チェコ   歌詞言語: チェコ語


Vítaj,Janíčku,
vítaj tady v lese!
Jaksá št'astná trefa
t'a sem cestú nese?

Vítaj,Janíčku!
Co tak tady stojíš,
bez krve,bez hnutí,
či snad sa mne bojíš?”

Nemám já sa věru,
nemám sa koho bát,
přišel sem si enom
nákolníček ut'at!”

Neřež můj Janíčku,
neřež nákolníčku!
Rači si poslechni
cigánskú pěsničku!”

  Ruky sepjala,
  smutno zpívala,
  truchlá pěsnička
  srdcem hýbala.

ようこそ、ヤン
ようこそ、この森の中へ!
どんな幸せが、あんたをここへ
小道を通って連れてきたの?

ようこそ、ヤン!
何でそこに突っ立てるのよ
血の気も失せて、身動きもせずに
たぶんあたしが怖いのね?

俺は怯えてなどいない,
誰も恐れなどしないさ
ここに来たのはただ,
木釘の枝を切るためだ!

だめよ、あたしのヤン、
やめなさい、枝を切るのは!
それよりお聴きなさいな
ジプシーの歌を!

  彼女は両手を組み,
  悲しそうに歌った。
  悲しみを湛えた歌は
  心を揺り動かした


ここでいよいよジプシー娘の登場です。哀愁を湛えたその歌声はこの若者でなくてもすっと惹かれてしまいそう。とりわけヤンの返事を受けて「枝を切るのはやめて」と歌うところのメロディはとろけるように美しいです。それを受けて「彼女は腕を組み悲しそうに歌った」の語りをするのは舞台裏からの女性合唱。この深い森の幻想的な雰囲気を見事に表しています。もう夕暮れになってしまったのでしょうか。
なお、この女性合唱で歌われる部分、新聞に載っていた元の版では「私の心を揺り動かした」と主人公のモノローグになっています。が、ここはそれを森の語りにしたヤナーチェクの処理がより一層見事な効果を上げていると思います。とにかくここからふたりが結ばれるまで、この合唱による森の語りを絡めての畳み掛ける展開は凄いとしか言いようがありません。

また、ここで初めて主人公の名前が出てまいりました。「ヤニーチェク」というのは「ヤン」の愛称なので「愛しいヤン」といった訳語が当てられることがあります。私もどうしようか迷ったのですが結局何も付けずに「ヤン」としました。このジプシー女がヤンよりもずっと年上のおネエさまだとかいうことになれば「ヤン君」とか「ヤンちゃん」あるいは「ヤン坊」とでもしたかったところですが...
ヤンをまるで手玉に取っているようなやり取りは、実のところそれが正しいことを暗示しているようにも思えたのですけれどもどうなのでしょうか。それとどうでも良いことですが、「ヤニーチェク」とヤナーチェク、響きが似てませんか?彼ももし自分がこうだったらどうだろうかとイメージしながら曲を書いたのかも。カミラとの不倫の恋もありますから(もっともこちらは女性の方がぐっと若いのが逆ですが。それだけヤナーチェクの気持ちが若かったのか?)

( 2008.10.10 藤井宏行 )


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