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Svatojánské mušky tancija po hrázi    
  Zápisník Zmizelého
蛍が堤防のほとりで舞い  
     消えた男の日記

詩: カルダ (Ozef Kalda,1871-1921) チェコ
      

曲: ヤナーチェク (Leoš Janáček,1854-1928) チェコ   歌詞言語: チェコ語


Svatojánské mušky tancija po hrázi,
gdosi sa v podvečer podle ní prochází.
Nečekaj,nevyjdu,nedám já sa zlákat,
mosela by po téj má maměnka plakat.

Měsíček zachodí,nic už vidět není,
stojí gdosi stojí v našem záhumení.
Dvoje světélka zářija do noci.
Pane Bože,nedaj! Stoj mi ku pomoci!

蛍が堤防のほとりで舞い
誰かがこの夕暮れに同じようにさまよっている
待ち伏せするなよ、俺は行かないぞ、誘惑されるものか
ついて行ったりすりゃ 母さんを泣かせちまう

月が沈んで もう何も見えないが
誰かが俺の家の庭に立っている
ふたつの光が闇に輝いている。
おお神様、お願いだ!どうか俺を助けて!


訳詞ではホタルとしましたが、原詩の直訳では「聖ヨハネの虫」という名前になります。聖ヨハネの祭りといえばヨーロッパでは6月24日の夏至祭のこと。ちょうどこの頃飛び始めるのでホタルにこう言う名前がついているのだとか。夏至祭のことを歌った歌は北欧に多くありますが、もともと自然崇拝の強かった異教の祭りをそのままキリスト教の祭りに取り込んだためか北欧のような辺境の方が盛んだということもあるのでしょう。そういえばシェイクスピアの「真夏の夜の夢」の不思議な世界もこの時期が題材ですね。
そして夏のお祭りと言えば古今東西を問わず男女のめぐり合いの大切な場。恐らくこのジプシー娘もこの青年を誘おうと暗闇の中じっと窺っているのでしょう。彼女の両目の輝きがまるでホタルの乱舞のように表現されているのが意味深長です。ただちょっと不気味かも。
冒頭のピアノのトレモロはホタルの飛ぶ描写でしょうか。たいへん幻想的な響きです。
また「待ち伏せするなよ、俺はいかないぞ」のところではなぜか音楽は甘美になって、ここでも拒んでいながら心はすでに彼女を受け入れているかのようで、非常に心憎い展開ではあります。最後の神様に助けを求める叫びも、ですから実のところ決して切実そうに聞こえないのが面白いところ。

( 2008.10.10 藤井宏行 )


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