Kak tsvet,ty chista i prekrasna |
花のように、お前は清らかで美しい |
Kak tsvet,ty chista i prekrasna, Nezhna,kak tsvetok po vesne; Vzgljanu na tebja - i trevoga Prokradetsja v serdtse ko mne. I kazhetsja,budto b ja ruki Tebe na chelo vozlozhil, Moljas’,chtoby bog tebja nezhnoj, Prekrasnoj i chistoj khranil. |
花のように、お前は清らかで美しい そして優しい、春の花のように お前を見ると-不安が 私の心の中に忍び込んでくる そして思うのだ、この手を お前の額の上に置いて 祈るのだ、神様がお前に優しさと 美しさと清らかさを保ち続けるようにと |
ハイネの詩はロシア人には人気が高いのか、非常に多くのロシア語訳が存在し、そして様々な作曲家が歌曲にしているのを耳にすることができます。シューマンが歌曲にしていることで良く知られている“Du bist wie eine Blume(君は花のように)”、ロシア語の歌ではアレクセイ・プレシチェーエフが訳しているラフマニノフのものが有名でしょうか。ところがこの詩にはもうひとつ、これもロシア歌曲ではおなじみの詩人アフナシィ・フェートが訳したものがあります。かなりプレシチェーエフの訳とは違っていて、私の感じたところではもっと素朴でシンプルな感じでした。またプレシチェーエフの訳では問題になった(日本だけで問題になっているだけのような気もしますが)Ditja(子供)を呼びかけにはしていません。それとプレシチェーエフのでは幸せ一杯といった感じでしたが、フェートの訳ではTrevoga(不安)という言葉も使ってちょっとした翳りも見せてくれていて面白いところです。
この詩には「赤いサラファン」で知られたグリンカと同世代の作曲家アレクサンドル・ヴァルラーモフが曲をつけたものがあります。時代的なものもあるのでしょうか。こちらもロシア民謡のような素朴この上ない歌です。そして詩の翳りを最大限尊重してか音楽も仄暗く、悲しみをほのかにたたえているかのような曲想が面白く聴けました。ラフマニノフのほのぼのと明るい曲とは対照的です。
残念ながらなかなか聴ける機会はないかも知れません。昔Tritonというレーベルから国内盤も出ていたキーロフオペラのテノール、コンスタンティン・プルージニコフの歌ったRussian Disc盤くらいのものでしょうか。ここにはヴァルラーモフの書いたロシアンロマンスが8曲も入っていてその音楽の魅力を堪能できますのでご縁がありましたらぜひお聴きください。
( 2008.10.04 藤井宏行 )