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It's a long way to Tipperary    
 
チッペラリーの歌  
    

詩: ジャッジ (Jack Judge,1878-1938) イギリス  & ウィリアムズ,ハリー (Henry James “Harry” Williams,1873-1924) イギリス
      

曲: ジャッジ (Jack Judge,1878-1938) イギリス   歌詞言語: 英語


Up to mighty London came
an Irishman one day,
As the streets are paved with gold,
sure ev'ryone was gay;
Singing songs of Piccadilly,
Strand and Leicester Square,
'Til Paddy got excited,
then he shouted to them there:-

(CHORUS)
 It's a long way to Tipperary,
 it's a long way to go;
 It's a long way to Tipperary,
 to the sweetest girl I know;
 Good-bye Piccadilly,
 farewell Leicester Square,
 It's a long,long way to Tipperary,
 but my heart's right there.


Paddy wrote a letter
to his Irish Molly O',
Saying,”Should you not receive it,
write and let me know!
If I make mistakes in spelling,
Molly,dear,” said he,
“Remember it's the pen that's bad,
don't lay the blame on me.”

(CHORUS)
 It's a long way to Tipperary,
 it's a long way to go;
 It's a long way to Tipperary,
 to the sweetest girl I know;
 Good-bye Piccadilly,
 farewell Leicester Square,
 It's a long,long way to Tipperary,
 but my heart's right there.


Molly wrote a neat reply
to Irish Paddy O',
Saying,”Mike Maloney wants
to marry me,and so
Leave the Strand and Piccadilly,
or you'll be to blame,
For love has fairly drove me silly,
hoping you're the same.”

(CHORUS)
 It's a long way to Tipperary,
 it's a long way to go;
 It's a long way to Tipperary,
 to the sweetest girl I know;
 Good-bye Piccadilly,
 farewell Leicester Square,
 It's a long,long way to Tipperary,
 but my heart's right there.

大都会ロンドンにのぼって来たるは
ひとりのアイリッシュの若者さ とある日のことだ
街の通りはみんな金ぴかに舗装され
人々はとても陽気だった!
ピカデリーの歌を歌ってるもんで
ストランドやレスター広場の歌なんかも
とうとう若者はアタマにきて
そこにいる街のやつらにこう叫んだのさ:

(コーラス)
 ティペラリーは遠いところさ
 帰るには遠いところさ
 ティペラリーは遠いところさ
 おいらの知ってる一番素敵な娘のいるところは!
 あばよ ピカデリーよ
 お別れだ レスター広場よ!
 ティペラリーは遠い、遠いところさ
 でもおいらの心は今もそこにある!


若者は一通の手紙を書いた
彼の故郷のモリーちゃんに
「結婚してくれないのなら
 そう書いて教えてくれよ!
 おいらの書いた綴りが間違ってても
 モリーちゃんよ」彼は書いたのさ
「そいつはペンだ、ペンが悪いんだ、
 おいらを責めないでくれよ」

(コーラス)
 ティペラリーは遠いところさ
 帰るには遠いところさ
 ティペラリーは遠いところさ
 おいらの知ってる一番素敵な娘のいるところは!
 あばよ ピカデリーよ
 お別れだ レスター広場よ!
 ティペラリーは遠い、遠いところさ
 でもおいらの心は今もそこにある!


モリーは短い返事を書いた
そのアイルランドの若者に
「マイク・マロニーが望んでいるわ
 あたしとの結婚を だからお願い
 ストランドから ピカデリーから戻ってきて
 でないとひどいことになるわ
 あんたへの愛にあたしは夢中なの
 あんたも同じだと信じてるんだから」

(コーラス)
 ティペラリーは遠いところさ
 帰るには遠いところさ
 ティペラリーは遠いところさ
 おいらの知ってる一番素敵な娘のいるところは!
 あばよ ピカデリーよ
 お別れだ レスター広場よ!
 ティペラリーは遠い、遠いところさ
 でもおいらの心は今もそこにある!


ミリタリーのオタク系の方にとっては第一次大戦関係の映像などでBGMによく使われていることでおなじみな歌でしょうか。もともとイギリスではやり出した流行歌なのですが、1981年のドイツ映画Das Boat(邦題「Uボート」)では第二次大戦のドイツ兵が潜水艦の中でこの歌を蓄音器に合わせて歌っているシーンがあったり、あるいはロシアの赤軍合唱団が愛唱していたり(映画「Uボート」の歌も彼らのようですね)と、戦争にまつわる歌としては世界的に愛唱されるものとなっているようです。今回いろいろ調べていて興味深かったのは現在の日本でもけっこう吹奏楽で取り上げられているのですね。私はそちらの分野には疎いのでちょっとした驚きでした。確かにリフレインの部分はとても耳に残りやすい素敵なマーチのメロディではあるのですが。

私にとってはこの歌は大正期の浅草オペラで大流行していた歌のひとつ、という知識がほとんどすべてでしたので、今回原詞の内容も含めて興味深い驚きの連続です。

もともとこの歌は1912年のイギリス北西部チェシャーの劇場の作曲家であったジャック・ジャッジが、「1日で曲がかけて舞台に乗せられるのか?」という飲み屋での賭けに応えて、彼の友人ハリー・ウイリアムズの助けも得て本当にたった1日で書かれたものなのだそうです。
賭けに勝ったばかりでなく、この覚えやすいメロディはイギリス中で大流行し、そして第一次大戦で出征するイギリスの兵士たちに愛唱されながらヨーロッパ中に広まったのでした。特にこの町、ティペラリーには陸軍の連隊があったのだそうで、そこの兵士たちにとっては特に思い入れがあったことと思います。故郷に残した愛しい人とのやり取りを歌ったこの歌は兵士たちの心に深く響いたことでしょう。

もっとも作者たちはこのティペラリーというアイルランド南部、内陸の町は知らなかったようです。
作曲者ジャッジの祖父母がこの町の出身だったということだそうで、たまたま頭に浮かんだ町の名前程度のことでしかないということでしょうか。

歌詞の補足をいくつかしますと、ピカデリー、ストランド、レスター広場はロンドンの有名な繁華街。
PaddyとあるのはPatrickという名前の愛称で、アイルランド人にこの名前が多いことからしばしばアイルランド人のことをこう呼ぶようです。ただ若干馬鹿にしたようなニュアンスもあるようですが。
ここでは「若者」という訳にしておきました。
それとMolly O'やPaddy O'とある“O'”ですが、O'NeilやO'Brianなどこれもアイルランド人の苗字に非常に多い接頭語(Son ofの意味のようです)であることからふざけて入れている感じです。

1914年に当時の大人気だったテナー、ジョン・マコーマックがバックコーラスと共に録音したものがネット上でも容易に聴けると思います。まさに第1次世界大戦中の録音。兵士たちもこのSPレコードを聴きながら故郷に思いを馳せたのでしょうか。


そして日本でもちょうどその頃でしょうか。どういう形で広まったのかはちょっと調べ切れませんでしたが(曲の雰囲気からして軍楽隊の演奏が起源のように私は推測しますけれど)、この歌はヨーロッパと同じように流行していたようです。決定的なヒットに繋がったのは1917年の浅草常盤座、高木徳子、伊庭孝らによるオリジナル作「女軍出征」の中で使われ、このオペレッタが大ヒットしたことから浅草オペラのテーマソングのようになったのだそうです。
(その時どのような日本語詞がついていたのかも見つけることはできませんでした。申し訳ありません)

宮沢賢治の童話「フランドン農学校の豚」にもいくつかこの歌に触れた記述がありますし

助手はのんきにうしろから、チッペラリーの口笛を吹いてゆっくりやって来る。 鞭もぶらぶらふっている。 全体何がチッペラリーだ。 こんなにわたしはかなしいのにと豚は度々口をまげる。
      宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」より

彼自身の作ったオペレッタ「飢餓陣営」の中でも、この曲を使った「私は五聯隊の古参の軍曹」というのを作っています。

東北の一小都市に住む若者にまでこうして影響を与えるに至った音楽の力というのは非常に興味深いものがあります。メディアが発達し、世界の情報の流れが加速的に速くなったとはいいますが、そのメディアのネットワーク化と逆行するかのように、ここ10年くらいこんな感じで世界的に流行った歌、というのは出てこなくなったように思われます。「音楽」というものがそれだけ現代社会の中で力を失ってしまったのか、それとも今のメディアの構造の中でじわじわと殺されているのか...新しい音楽によるコミュニケーションのあり方をそろそろ模索するべき時期なのかも知れません。初音ミクのワールドワイド展開なんかにひとつの可能性があるような気もしてはいますが。


日本国内のことを除いた大部分のソースは歌詞を含めてこの歌のテーマとなったアイルランドのティペラリーのサイト(公式ではないようですが)より引用させて頂いております。なお歌詞は昔の流行歌の常でかなり歌手によってバリエーションがあり、必ずしもここに載せた通りでないことをご了承ください。

http://homepage.tinet.ie/~tipperaryfame/longway1.htm

( 2008.09.21 藤井宏行 )


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