An Mignon Op.19-2 D 161 |
ミニヨンに |
Über Tal und Fluß getragen, Ziehet rein der Sonne Wagen. Ach! sie regt,in ihrem Lauf, So wie deine,meine Schmerzen, Tief im Herzen, Immer morgens wieder auf. Kaum will mir die Nacht noch frommen, Denn die Träume selber kommen Nun in trauriger Gestalt, Und ich fühle dieser Schmerzen, Still im Herzen, Heimlich bildende Gewalt. Schon seit manchen schönen Jahren Seh ich unten Schiffe fahren, Jedes kommt an seinen Ort; Aber ach! die steten Schmerzen, Fest im Herzen, Schwimmen nicht im Strome fort. Schön in Kleidern muß ich kommen, Aus dem Schrank sind sie genommen, Weil es heute Festtag ist; Niemand ahnet,daß von Schmerzen Herz im Herzen Grimmig mir zerrissen ist. Heim lich muß ich immer weinen, Aber freundlich kann ich scheinen Und sogar gesund und rot; Wären tödlich diese Schmerzen Meinem Herzen, Ach! schon lange wär ich tot. |
谷を超え 川を超え 太陽の馬車が行く ああ 太陽はその路で あなたの苦しみのように 私の苦しみを 心の中深く 朝になっては また掻き乱す 私には 夜さえもほとんど無益 夢がひとりでやってくるから 今は悲しい姿で この苦しみを感じる 静かに心の中で 密かに作られる激しい力を もう何年も前から 眼下で 各の場所へと 船が行くのを見ている しかしああ この絶え間ない苦しみは 固く心の中にあり 流れては行かない 綺麗に装わなければならない 衣装棚から もう衣は取り出してある 今日はお祝いの日だから 誰も気づかない 苦しみによって 心が心の中で 激しく千切られていることなど 人知れず いつも泣かずにはいられない でも私は愛想良く振舞うことも 元気に頬を赤らめることさえもできる この苦しみが 私の心で 命を脅かすほどならば ああ もうずっと以前に死んでいたのに |
ゲーテは1797年5月28日に、シラー Friedrich von Schiller (1759-1805) にこの詩を送りました。1798年の『アルマナハ』(年鑑) Almanach に掲載してもらうためです。その手紙によると、この詩のミニヨンは『ヴィルヘルム・マイスター修行時代』のミニヨンであることがわかります2) 。すなわち詩の内容は小説と異なりますが、ミニヨンに寄せて、ゲーテが独立した詩として書いたものです。
際だった特徴は、各節とも5行目が短く、二つ目のへーブング並びにゼンクングに同じことば「心」Herzen が置かれていることです。「心」はこの詩で繰り返し強調されることばで、ミニヨンの「心」とは、第4行「あなたの苦しみのように」と読者に語られていることから、時代や地域を越えた人々の心とも言えるでしょう。たとえば誰でも、愛する人の結婚という大きな苦しみに遭うことは避けられないかもしれません。しかし人はそんな時でも、何事もなかったかのように振る舞いながら、社会の一員として生きなければなりません。そのような苦悩の只中にある人に対し、心と時間を共にし、それによって生きる力を与える芸術作品のひとつがこの詩ではないでしょうか。
韻律は6行詩節でしばしば使われる「彷徨韻」Schweifreim (aabccb)。言い換えれば最初の2行は対韻Paarreim (aa)で、あとの4行は抱擁韻 Umarmender Reim (bccb). ゲーテは、各節同じ韻律形式とし、有節歌曲として作曲されることを期待したと思われます。有節歌曲とは、第1節に作曲した旋律を繰り返す有節形式で作られた歌曲。聖歌や民謡など、民衆的な歌によく使われています。とはいえ、全ての節を同様に歌うわけではなく、ゲーテ自身が語っているよ うに3) 、表現によって内容の変化を表すことが要求されます。シューベルトは1815年頃、有節歌曲に積極的に取り組んでいました。各節最後の行が繰り返されているものの、ほとんどテキストに手が加えられることなく、有節形式で作曲されています。
シューベルトは、このリートを1816年と1825年にゲーテに送っています。2度とも「馭者クロノスに」An Schwager Kronos D 369(1816作曲)と一緒に送られましたので、詳しくは「馭者クロノスに」のページをご覧下さい。なおゲーテに献呈された作品19のうち残りの1曲「ガニュメート」Ganymed D 544 (1817)は、私が声楽のレッスンを受けていた大学生の頃、1ヶ月も練習した難曲。この詩は後日、甲斐貴也さんが訳して下さるとのこと。たいへん嬉しく思います。
註
1) Franz Schubert. Neue Ausgabe sämtlicher Werke. Hrsg. von der Internationalen Schubert-Gesellschaft. Kassel,Basel,Tours,London (Bärenreiter-Verlag) 1967- . Serie IV. Lieder: Vorgelegt von Walther Dürr. Bd. 1 Teil a 1970 ,S. 129-131.
2) 参考Goethe,Johann Wolfgang von: Goethes Werke. Weimarer Ausgabe in 143 Bänden. Bd. 105 (WAIV.12). Hrsg. im Auftrage der Großherzogin So phie von Sachsen. Fotomechanischer Nachdruck der im Verlag Hermann Böhlaus Nachfolger,Weimar,1887-1919 erschienenen. München (Deutscher Taschenbuch Verlag GmbH &Co.KG) 1987,S. 131. u. Goethe,Johann Wolfgang: Sämtliche Werke nach Epochen seines Schaffens. Münchner Ausgabe. Bd.4.1. Hrsg. von Reiner Wild. Genehmige Taschenbuchausgabe 2006. München (btb Verlag 以下MA),S.1230f. 詩の初版はMusen-Almanach für das Jahr 1798. Hg. v. Schiller. Tübingen. S.179-180.
3) Goethe,Johann Wolfgang von: Tag-und Jahres-Hefte als Ergänzung meiner sonstigen Bekenntnisse. MA Bd.14,S.65.
(訳、記述 2003.2.13 改訳、加筆 2008.8.14 渡辺美奈子)
( 2008.08.14 渡辺美奈子 )