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Otravoj polny moi pesni    
 
私の歌たちは毒でいっぱいだ  
    

詩: メイ (Lev Aleksandrovich Mei,1822-1862) ロシア
      Vergiftet sind meine Lieder 原詩: Heinrich Heine ハイネ,Buch der Lieder - Lyrisches Intermezzo(歌の本-抒情小曲集)

曲: ボロディン (Alexander Borodin,1833-1887) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Otravoj polny moi pesni,
i mozhet li inache byt’?
Ty,milaja,gibel’nym jadom
sumela mne zhizn’ otravit’.

Otravoj polny moi pesni,
i mozhet li inache byt’?
Nemalo zmej v serdtse noshu ja
i dolzhen tebja v nem nosit’.


私の歌たちは毒でいっぱいだ
他の何物でもありはしないだろう?
お前が、恋人よ、死に至る猛毒を
私の人生に注いだのだ

私の歌たちは毒でいっぱいだ
他の何物でもありはしないだろう?
私の心臓の中にはたくさんの蛇どもが巣くっている
そしてお前もきっとその中にいるはずだ


これも大変有名なハイネの詩のロシア語訳。訳はレフ・メイによるものだそうです。いかにもハイネらしい呪詛に満ちた恨み節で、ロシア民謡風のボロディンのメロディにたいへん良くはまっています。作曲は「海の女王」「偽りの響き」と同じ1868年で、この年にはほとんどこれらの歌曲しか書けなかったようです。本業が化学者の彼には時間がなかったということもあるのでしょうが、実は彼、女性にはよくモテていたようで、ちょうどこの年、アンナ・カリーニナという若い女性にモーションを掛けられていたようなのです。真面目で奥さん一筋のボロディンは決してそのような状況をオイシク頂くということはなかったのですが、人の口に壁は立てられません。このことは奥さんのエカテリーナの知るところとなり、けっこう激しく叱られたというような話が伝記に残っています。
そのような逸話を知ると、なぜ彼がこのような詩にわざわざ歌曲を付けるに至ったのかがものすごく分かるような気がしませんでしょうか?
ハイネがこの詩を書いたのとは全然違うシチュエーションですが、別の意味での感情移入しまくりの音楽はなんとも微笑ましくさえなってしまいます。
そしてこの年の他の2曲の歌曲もそのような事情を知ってみると非常に意味深のものばかり。いやあ意外とユニークな人だったのですね。
(確かにこれだけでなくユニークな歌曲ばかり残していますが...)

( 2008.08.01 藤井宏行 )


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