Kelomai se Gongyla |
戻って、ゴングラ |
Kelomai se Goggyla Pephanthi lavoisa ma Glaktinan,se defte pothos t amphipotatai. Tan kalan a gar katagogis afta eptoais' idoisan ego de chairo kai gar afta di tode memfetai soi Kyprogenia |
戻って、ゴングラ 今宵私のもとに クリームのような白いドレスを着て あなたの美しさの周りには喜びが漂う 美しさと希望が あなたの衣装が目に入っただけで 私の心はときめく あなたの美しさのことで 私は美の女神と言い争ったことさえあるの |
抜けるような地中海の青い空と海を思わせる映画音楽の名作「日曜はダメよ Never on Sunday」の作曲者ハジダキスは、故国ギリシャでは伝統に根差した歌曲の創作にも力を入れていたのだそうです。そんな彼の作品の中でもっとも興味深いのは、古代ギリシャ、レスポス島の女流詩人サッフォーの詩につけたこの歌曲です。
サッフォーの詩と言えば、西ヨーロッパの文化にも大きな影響を与え、その翻訳にはグノーなどの作曲家が曲を付けたり(イギリスの作曲家バントックにはそのものズバリの管弦楽付き歌曲集「サッフォー」があります)していますが、本場ギリシャの作曲家がギリシャ語で曲を書いているというのはやはり注目せずにはいられないでしょう。
詩の中で呼びかけられているゴングラというのは、サッフォーの弟子の一人で女性です。そういえばレズピアンの語源になったレスポス島、倒錯の喜びを歌い上げているのかなとも思ったのですが、調べてみるとそんなに単純な話ではないみたいです。(男社会でガチガチのギリシャ本土と、かなり自由なレスポス島との文化摩擦が後に誤解を生んだようです)
詩は愛の喜びをおおらかに歌うシンプルなものですが、私はギリシャ語は解さないので、CDのライナーにある対訳やネットで探した英訳などに頼ってさらに日本語に訳しました。それでニュアンスには相当欠ける訳になってしまったように思います。
尤も、日本でいうと古今集に対する万葉集のようなもので、そういう細かなニュアンスなど元々なく、感情の吐露をそのまま詩にしているのかもしれません。
サッフォーは詩人として有名であるにも関わらず、その詩はほとんど目にすることはできません。同性愛のイメージが強くなった後世、キリスト教徒たちによって破棄されてしまったのだそうで、この詩もどれくらい元の作風を反映しているのかは分からないところはありますが。
しかして、そこに付けられた曲はアラブやユダヤの民謡のようなエキゾチックな音楽なので、なんとも面白い体験ができます。
ハジダキスの歌曲というと、アグネス・バルツァ(Ms)の盤(DG)やマリア・ゾウヴェスの盤(VAI)などのギリシャ歌曲集に何曲か収録されていますが、それらに聴くことのできる伝統的なギリシャ音楽と一線を画したエキゾチシズムです。
そういえば地図でみると、レスポス島というのはほとんどトルコの隣にありますし、文化的にもギリシャ本土とは異質なのかも知れません。
スイスのGalloレーベルから出ている面白い企画のCD「地中海をめぐる音楽」というCDで、スペインのガルシア・ロルカや、イスラエルのベン・ハイムなどの作品に混じってこの曲が収録されています(GALLO CD-605)。
歌手のソプラノ、Mayer-Reinachは地中海音楽の研究をしているとかで声の美しさなどは今ひとつですが、伝統的なクラシック歌曲からアラブの民謡調の曲まで多彩な表現で聴かせてくれます。
( 2003.02.11 藤井宏行 )