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Lied des Mephistopheles    
  Fünf Goethe-Lieder
メフィストフェレスの歌  
     5つのゲーテの歌曲

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Faust Teil 1(ファウスト 第1部 1806) 08.Auerbachs Keller in Leipzig(ライプツィヒのアウエルバッハの地下酒場) Es war einmal ein König

曲: ブゾーニ (Ferruccio Busoni,1866-1924) イタリア   歌詞言語: ドイツ語


Es war einmal ein König,
Der hatt' einen großen Floh,
Den liebt' er gar nicht wenig,
Als wie seinen eig'nen Sohn.
Da rief er seinen Schneider,
Der Schneider kam heran;
“Da,miß dem Junker Kleider
Und miß ihm Hosen an!”

In Sammet und in Seide
War er nun angetan,
Hatte Bänder auf dem Kleide,
Hatt' auch ein Kreuz daran,
Und war sogleich Minister,
Und hatt einen großen Stern.
Da wurden seine Geschwister
Bei Hof auch große Herrn.

Und Herrn und Frau'n am Hofe,
Die waren sehr geplagt,
Die Königin und die Zofe
Gestochen und genagt,
Und durften sie nicht knicken,
Und weg sie jucken nicht.
Wir knicken und ersticken
Doch gleich,wenn einer sticht.

昔あるところに王様がいて
大きなノミを飼っていた
その可愛がり方はたいそうなもので
まるで自分の息子のよう
お抱えの仕立屋を呼び付け
仕立屋がやってくると
「貴族の上着の寸法を測れ
それにズボンズボンの寸法を測れ」と

ビロードと絹の布で
やつは奇麗に着飾った。
上着の上には帯を付け、
帯には勲章をぶらさげた。
ノミはたちまち大臣となり、
絶大な権力を手に入れた。
それでノミの仲間たちも
宮廷でみな、高い位に就いた。

宮廷の者たちは男も女もみな、
やつらに大いに悩まされ、
お妃や侍女たちも
刺されたり、かまれたりしたが、
誰もノミを潰すことは許されず、
痒みを掻くことすらできなかった。
俺達は潰したり、叩いたりできるけどね
痒いと思ったらいつでも好きな時に


掲示板でこのブゾーニ歌曲の話題になった時に、Hisatoさんは謙譲の美徳を発揮して下さり、このブゾーニ歌曲紹介第一号の栄誉を私に任せて下さいました。(もしかすると「君子危うきに近寄らず」だったのかも?)
いやはやこのブゾーニの5曲からなるゲーテ歌曲集、強烈なこと筆舌に尽くし難く、20世紀歌曲の怪作No.1とまでこの際言い切ってしまっても良いかも知れません。5曲のうちHisatoさん絶賛?の「ジプシーの歌」はあまりの凄さに発する言葉もありませんので、 ここでは一言「人間機関車のような曲」と表現するに止め、 もう少し語ることのできる作品を選んで見ました。
詩をご覧頂ければおわかりのように、これは「ファウスト」の一節、ライプツィヒの酒場で学生たちと悪魔メフィストフェレスが飲んで騒いで歌う歌で、有名なところではムソルグスキーの「蚤の歌」がありますね。
この曲をブゾーニがどう料理したかというと、ノミが大量に跳ね回るようなピアノの無窮動の上を、絶叫する声が絡み合いながら一気にクライマックスになだれ込むというもので、最後の「俺達は潰したり、叩いたり」のところ(Wir knicken und ersticken)を繰り返し繰り返し叫び続ける終結部分は圧巻です。
ブゾーニのゲーテ歌曲集、これと「ジプシーの歌」の他には同じ「ファウスト」から「ブレンデルの歌」、 「西方詩集」から「不機嫌な歌」「ひどい悲しみ」の2曲で全5曲です。
ブゾーニといえば、ピアノの名手として無茶苦茶技巧的なバッハの編曲を残したり、オペラでも怪しさ満点の作品をいろいろ作っていたりと非常に多彩な活躍をした人ですけれども、歌曲も要注目です。ゲーテの詩になる曲は最晩年の作品で、完全にキレていますが、初期や中期の作品は擬古典的な作りをしていたり、ヴォルフのような切れのよい曲を書いたり、なかなかのものです。
歌曲集がItariaというレーベル(Fonit Cetraの1レーベル)のCDC84というのが出ていましたが、ちょっと入手は難しくなったかも知れません。
Hisatoさんはフィッシャー?ディースカウのザルツブルク音楽祭ライブを言及されていました。私は未聴ですがあの技巧で歌うのですからきっと凄まじい世界が広がっていることが期待されます。

( 1999.12.02 藤井宏行 )


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