Irrlicht Op.89-9 D 911 Winterreise |
鬼火 冬の旅 |
In die tiefsten Felsengründe lockte mich ein Irrlicht hin: Wie ich einen Ausgang finde? Liegt nicht schwer mir in dem Sinn. Bin gewohnt das irre Gehen, 's führt ja jeder Weg zum Ziel: unsre Freuden,unsre Leiden, alles eines Irrlichts Spiel. Durch des Bergstroms trockne Rinnen wind ich ruhig mich hinab- jeder Strom wird's Meer gewinnen, jedes Leiden auch sein Grab. |
岩場の谷の奥底へ 鬼火に誘い込まれて行った どうやって出口を探すか? そんなことはどうでもいい 迷うことには慣れてしまった どんな道にも行き着く先があるのさ 人の喜びも苦しみもみな 鬼火のゆらめきでしかないのだ 干上がった渓流の跡を辿り ゆっくりと降りて行こう・・・ どんな流れもやがて海に達するように どんな苦悩もいつか墓穴に入るのだ |
この詩はミュラーの詩集では『宿屋』の次にありますが、終盤でのこの配列は非常に陰惨な感があります。シューベルトの配列では曲集中最初の死への言及となり、本当の死への憧れというより、ニヒリズムを気取っているようにも思えます。
注目すべきは、鬼火はただそこにあるだけで、決して語りかけてきたりすることはなく、沼沢地で発生するメタンガスの自然発火とも言われる、単なる自然現象として解釈できることです。『冬の旅』には「3つの太陽」「旅人を惑わす幻」「鬼火」など超自然的なものが現れますが、それらはほぼ自然現象として説明できること、風見やリンデンバウムの語りかけは、若者自身の内面の声であると考えられることと合わせ、この詩集の近代的性格を形作っていると言えるでしょう。
いずれにしても、曲集中に点在する春と愛の思い出と極端な対照をなす陰惨極まりない光景です。
( 2008.03.27 甲斐貴也 )