Wasserflut Op.89-6 D 911 Winterreise |
溢れる流れ 冬の旅 |
Manche Trän' aus meinen Augen ist gefallen in den Schnee; seine kalten Flocken saugen durstig ein das heiße Weh! Wenn die Gräser sprossen wollen, weht daher ein lauer Wind, und das Eis zerspringt in Schollen, und der weiche Schnee zerrinnt. Schnee,du weißt von meinem Sehnen: Sag,wohin doch geht dein Lauf? Folge nach nur meinen Tränen, nimmt dich bald das Bächlein auf. Wirst mit ihm die Stadt durchziehen, muntre Straßen ein und aus- fühlst du meine Tränen glühen, da ist meiner Liebsten Haus. |
僕の眼から涙がいくつも 雪の中に滴り落ちる 冷たい雪片が貪るように 熱い悲しみを吸い尽くす! やがて緑が芽吹く頃 暖かい風が吹きよせれば 氷の塊は砕け 緩んだ雪も解けてゆく 雪よ、僕の想いを知っているな お前がどこへ行くのか言ってくれ 僕の涙について行けば やがて小川に受けとめられる あの町の中を一緒に通り 賑やかな街路を次々くぐる・・・ 僕の涙が熱くなるのを感じたら そこが僕の愛する人の家なのだ |
この曲の題名には古くから「溢れる涙」という訳がありますが、直訳で「溢れる水」のところ、詩の中に別に「涙Tränen」という語がありますから、訳語としては問題なくとも同じ「涙」は避けたいです。しかしもちろん、詩の中に出てこないこの”Wasserflut”という題、単なる溢れる水ではないに決まっていますね。それが春の雪解け水なのか、共に流れる涙なのかは、読む人それぞれが感じればよいことだと思います。
指定はLangsamですが、わたしの好みとしてはあまり遅いのは、ここで流れが滞るように思えて苦手です。大好きなフィッシャー=ディースカウ&バレンボイム盤も、この曲に4分30秒もかけている(普通は4分前後)のが唯一引っかかるところでしたので、後年のブレンデルとの録音が40秒も短縮されているのは我が意を得たりでした。
( 2008.02.17 甲斐貴也 )