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The Letter    
 
手紙  
    

詩: ディキンソン (Emily Elizabeth Dickinson,1830-1886) アメリカ
      

曲: ホイビー (Lee Hoiby,1926-2011) アメリカ   歌詞言語: 英語


You ask my companions,
Hills,sir,and the sundown,
and a dog large as myself
that my father bought me.

They are better than beings
because they know but do not tell;
and the noise in the pool at noon
excels my piano.

I have a brother and sister;
my mother does not care for thought,
and father,too busy with his briefs
to notice what we do

He buys me many Books
but begs me not to read them
because he fears
they joggle the Mind

They are religious -except me-
and address an Eclipse,every morning
whom they call their “Father.”
But I fear my story fatigues you

I would like to learn.
Could you tell me. how to grow,
or is it unconveyed,.
like melody,or witchcraft?

わたしのお友達についてお尋ねですか
丘と、夕暮れですわ
それにわたしと同じくらい大きな犬
お父様が買ってくださったの

それらが人間よりもわたしは好きです
なぜって、知っていても何も言わないから
真昼の池の音は
わたしのピアノよりもずっと素敵

私には兄と妹がいます。
お母様はわたしが何を考えているかは気にしません
お父様はといえば、小言ばかり
あれをしろ、これをしろと

お父様はわたしにたくさんの本を買ってくれました
でも、それを読むなとおっしゃるのです
心配しているのでしょう
私が本に惑わされないかと

みな信心深いのです。私のほかは
毎朝、朝日に向かってお祈りを捧げます
父なる主とお呼びしている方に
こんなお話はうんざりでしょうか

私は知りたいのです
どうやって大人になるのか教えてくれますか
それともそれは伝えられないのでしょうか
メロディや魔法と同じように

エミリー・ディッキンソンに「A Letter」とかいう詩があったのかなあ、と私はずいぶんと調べました。それというのもこの詩につけたアメリカの歌曲作家Lee Hoibyのこの曲を収録したアメリカのメゾ歌手、ジェニファー・ラーモアのアメリカ歌曲集(Werner)には歌詞カードが付いておらず、また頼みのEmily Ezustのページにも歌詞が載っていなかったからです。耳コピーなんかも頑張った末にようやく突き止めました。この曲はデッキンソンの詩ではなく、まさに彼女の書いた「手紙」の一節であることを。
まるで引き籠りのように生活していたディッキンソンの研究においては、彼女の手紙を掘り起こして研究することがけっこう重要なことのようで、彼女の詩に通し番号がついているみたいに、手紙にも通し番号がついていて驚きました。
これは彼女がまだ若かった頃、彼女の詩の価値を理解してもらおうと、文芸批評家のトーマス・ウェントワース・ヒギンソン(1823-1911)に書いた手紙の一節です。前のやり取りの中でもっと彼女のバックグラウンドについて知らないと彼女の革新的な詩の意味は分からないだろうと考えたヒギンソンからの問いに答えている部分。ということで彼女のかなりプライヴェートをさらけ出している内容です。こんなものが後の世に残って公開され、歌にまでなってしまうなんて、有名になるのはなんて大変なことなのでしょうか...
しかしこの手紙の一節、まるで詩のように美しい言葉の流れのように私には読めました。もちろん伝統的な詩の規則なんかまるで関係ないですけれども、ディキンソンの詩自体がそういったものを破壊した革新的なところにひとつの価値を生み出しているのですから、文学者でもないわが身にはこの美しい言葉の流れを、いかにもアメリカの歌、という感じの素朴にシンコペートしているホイビーのメロディで味わうのが良いですね。若い女性の初々しさが伝わってくるような素敵な歌です。

( 2007.12.30 藤井宏行 )


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