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Song of the Vagabonds    
  The Vagabond King
荒くれ者どもの歌  
     放浪の王様

詩: フッカー (Brian Hooker,1880-1946) アメリカ
      

曲: フリムル (Rudolf Friml,1879-1972) チェコ→アメリカ   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
荒くれ者よ
命を賭けろ
御国のために
悲しむ者よ
あすは歓喜だ
御国の勝利
行け 行け 敵を倒せ
行け 行け 旗のもとに!
フランスの子らよ
鎖をちぎれ
奴隷となるな

〜この曲のリフレインの部分(「蒲田行進曲」で使われたメロディの部分)を意訳して、このメロディで歌える歌詞にしてみました。また原詞は著作権のため掲載致しません。ご了承ください。


1925年のアメリカで上演された「The Vagabond King(放浪の王様)」の中で、コーラスと共に勇ましく歌われるこの歌、なぜか日本では全く別の歌詞がついて広く知られています。1982年の松竹映画「蒲田行進曲」のテーマソングとして鮮烈にリバイバルしたまさにその名も「蒲田行進曲」、もとはクラシック音楽から文部省唱歌、はたまた流行歌の世界まで作詞や訳詞・はたまた歌の作曲まで幅広く活躍した堀内敬三の詞によって昭和4年の松竹映画「親父とその子」の主題歌となったのがこの曲でした。
原曲のリフレインの部分(蒲田行進曲で歌われる部分)をちょろっと上で紹介しましたが、およそ「風の都 光の都 キネマの世界」なんて歌詞にはなりそうもないこの歌を、松竹蒲田撮影所のテーマにした発想は凄いとしか言いようがありません。映画でのオリジナルは当時の映画主題歌では良く見かけるふたりの歌手、曾我直子と川崎豊によって歌われており、現在でもコロムビアの復刻CDで耳にすることができます。
(日本映画主題歌全集Vol.1などいくつかのアルバムに収録)
個人的には彼らの録音は現在までその名残が感じられる日本風ヴェルカントの歌い方がどうにも私にはなじめず、むしろ82年の映画で平田満や松坂慶子・風間杜夫が歌ったものの方が私は好きなのですが、いずれにしてももはや日本の歌のように聞こえるほど耳になじんだメロディになりました。昔何度かJRの蒲田駅を利用したことがありますが、あそこの発着のチャイムにもこのメロディが使われていますね。今もそうでしょうか。

さて、そんな風に日本では定着してしまったこの歌ですが、オリジナルはアメリカのオペレッタのメロディ。もともとはJ.H.マッカーシーの小説「われもし王なりせば(If I Were King)」に基づいて1925年にチェコ出身で当時アメリカで活躍していたルドルフ・フリムルによって書かれた「The Vagabond King(放浪の王様)」の一節です。
舞台は15世紀のフランス、バーガンディ(フランス南東部ブルゴーニュ)に攻められて疲弊しているパリで、国王ルイ11世と実際に当時実在していた詩人フランソワ・ヴィヨンの確執を織り込みながら、王の姪キャスリーンとヴィヨンとのロマンスを描きます。
この歌は国王との確執を超えて、フランスをバーガンディの脅威から救おうと立ち上がったヴィヨンが、集めた乞食や囚人たちを鼓舞しながら敵と戦うシーンで歌われる勇ましい歌です。
「国を救うのだ」という意気込みを合唱と壮大に掛け合いで歌ったあとリズムが早くなり、そして例のおなじみのメロディでだいたい上に書きましたような内容の歌をヴィヨンがソロで歌います。
(原詞は残念ながら著作権の関係で掲載できません。ご了承ください)
詞の内容からも想像できますとおり、大変に勇ましいシーンの勇ましい歌ですので、原曲を聴くと「蒲田行進曲」とのイメージの違いにかなりのけぞってしまいます。CDで入手が容易なのはアメリカの人気歌手だったマリオ・ランツァの歌ったもの(BMG)でしょうか。彼はこのオペレッタのハイライトを歌っており、その中でこの曲を耳にすることができます。なおこのオペレッタで興味深いことは、タイトルにもなった「If I Were King」などいくつかのナンバーがヴィヨンの詩に基づいて作られていることです。
私は未聴なのですが、これが1930年に舞台でもヴィヨンを演じたデニス・キングによって映画化されたもののサントラや、それから最近になってリバイバルされたものの録音(詳細は失念)があるようです。

このあたりのアメリカンオペレッタ、ジャズスタンダードとして一部のメロディが生きながらえている他はほとんど忘れ去られてしまっていますが、それなりに掘り起こすとたいへん面白く、そして美しいです。
このフリムルやヴィクター・ハーバート、あるいはジークムンド・ロンバーグなどのオペレッタ、その後のブロードウエイ・ミュージカルに繋がる先駆けとしてもっと目を向けられてもいいのではないかと私は思いますけれども。

( 2007.12.08 藤井宏行 )


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