Quand je fus pris au pavillon Douze rondels |
彼女の館に捕らえられた時 12のロンデル |
Quand je fus pris au pavillon De ma dame,très gente et belle, Je me brûlai à la chandelle Ainsi que fait le papillon. Je rougis comme vermillon, A la clarté d'une étincelle, Quand je fus pris au pavillon. Si j'eusse été esmerillon Ou que j'eusse eu aussi bonne aile, Je me fusse gardé de celle Qui me bailla de l'aiguillon Quand je fus pris au pavillon. |
彼女の館に捕らえられた時に 気品ある美しい彼女に 私はろうそくの火で身を焦がしてしまった 飛んで火に入る夏の虫のように 私はさっと赤くなった 火花の光に溶かされた鉱石のように 彼女の館に捕らえられた時に もし私が鷹のような鳥で 丈夫な翼を持っていれば 私は彼女の繰り出すトゲから 身を守ることができただろうに 彼女の館に捕らえられた時に |
15世紀のフランスの王族。シャルル・ド・オルレアン公(ルイ12世のお父さん)の詩に付けているので、曲の雰囲気も古雅なものになりました。
20世紀初頭のサロン音楽の寵児、アーンの作品にはこのようにみやびな味わいを醸し出すものがたくさんありますが、この曲はバッハのカンタータのアリアのような「クロリスに」と並んでひときわ印象的な曲です。
詩は美しい女性にひとめぼれした心を歌っていますが、このイメージはクモの巣に絡め取られた蝶ですね。
恋の歌としては少々皮肉っぽい内容なので、そんな感じで訳を遊んでみましたが、曲はバロックオペラのアリアのような非常に美しいものです。
マディ・メスプレの清楚な声や、スーザン・グラハムのしっとり感など女声で聴くのも良いのですが、この曲の擬古典的な味わいが非常にしっくりきているのはテノールのマーティン・ヒルが歌ったもので、彼の端正な歌声で聴くと、この曲がまるでバッハかヘンデルのアリアのように聞こえるのは非常に面白い聴きものです。
しかしこの曲のタイトルQuand je fus pris au pavillonは何と訳したら良いのでしょうか?
スーザン・グラハムのCDの国内盤では「わたしがとりこになったとき」とお洒落なタイトルになっていますが、ちょっと毒気が足りないかも。さりとてヒル盤のように「愛する女の離れ家で虜になったとき」では少々やり過ぎかと...
とりあえずあいだを取って「彼女の館に捕らえられた時」としておきましたがまだいまひとつしっくりきていません。
( 2003.09.26 藤井宏行 )