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チャッカリしてるわネ    
 
 
    

詩: 西岡水朗 (Nishioka Suirou,1909-1955) 日本
      

曲: 古賀政男 (Koga Masao,1904-1978) 日本   歌詞言語: 日本語


エロと涙は 女の武器よ
イットを振りまく 仇情
そこで男のネ 深情
チャッカリ してるわネ

恋のドライブ 行く先ゃままよ
心気まかせ 君まかせ
あとは親父のネ 金まかせ
チャッカリしてるわネ

安いお酒でも 嬉しいものよ
キッス恋しや 酔い心地
ブルでいるよなネ 夢心地
チャッカリしてるわネ

踊れ踊れと 毎日毎晩よ
恋のルンペン 明日はない
みそか来たとてネ あてはない
チャッカリしてるわネ

キゲン取るときゃ センチでソロよ
泣いてやく時ゃ 夜をこめて
調子外れにネ ジャズります
チャッカリしてるわネ



日本の演歌・歌謡曲の大御所、古賀政男の作品をこのサイトで取り上げるのはこれが初めてですが、それにこんな曲を持ってくるのは我ながら情けない、っていいますか正統的歌謡曲ファンからは石を投げられかねない暴挙と言えなくもないでしょうか。ただこの曲、彼の20代前半の作品なのですけれども、この頃彼は「うちの女房にゃ髭がある」や「のばせばのびる」「ああそれなのに」など結構な数のコミックソング(と私は聴いていて思う)を手がけています。決して「酒は涙か溜息か」とか「人生劇場」なんかの渋い歌謡世界一辺倒の人ではなかったのだ、ということもまた知っておいて頂ければと思います。

大正バブルが弾けて不景気になり、時代は閉塞感を漂わせながらどんどん退廃していく。
昭和のはじめというのは歴史を調べてみるとそんな時代であったようです。決して「大日本帝国ばんざい」というような太平洋戦争中の日本のイメージで見てはいけないのですね。言葉だけは私も聞いたことのある「エロ・グロ・ナンセンス」というのが昭和初めの世相を語るキーワードであったことはとても注目に値します。そしてこの歌、昭和6年の映画「ちゃっかりしてるわネ」の主題歌、そんな世相を語るキーワードが散りばめられて非常に興味深いです。なお作詞者の西岡水朗.(にしおかすいろう 1909-1955)の著作権は既に切れているはずですので歌詞の方をご紹介させて頂こうかと思います。それだけの価値のある詞だと思いましたので。

この昭和はじめ、歌の文句に外国語を織り込むのが異様なほどに流行ったようで、強烈なものとしては演歌師の神長瞭月が歌った「アイ・ドント・ノー」なんて歌があります。著作権のため全部歌詞をご紹介できないのが残念ですが、こんな時代に「ラブはその日の出来心 ベビーちゃんができたらアイドントノー」なんていう歌詞をヴァイオリン片手に街中で歌っているなんていう光景は、私には想像の遥か彼方なのですがしかし事実のようです(しかも記録によればこれは大正8年の作だとか!)

と脱線はともかくこの歌です。今でも使われる言葉もありますが、いくつかは補足解説が必要でしょうか。
「イット」というのは昭和2年頃の流行語で今の言葉に直せば「エロかわ(いい)」といったところでしょうか。可愛らしい性的魅力のことだそうで、映画から流行り出したもののようです。
ブルとはブルジョアジーのこと。これも今なら「セレブ」とでもいうところでしょうかね。ルンペンは失業者、「みそかきたとて」というのは月末〆のツケの支払いのことです。センチっていう言葉は私の代では魔法使いサリーちゃんのテーマで使われていたのを覚えていますがもうご存じない世代の方の方が多いでしょうか。長さの単位ではなくて「センチメンタル(感傷的)」の略ですね。また当時は一人のことを「ソロ」なんて言っていたのでしょうか...

当時のジャズソングでよく名前を見かける天野喜久代の和風とも洋風ともつかない不思議な歌声に妙にはまったこの歌、昭和の初めを象徴する興味深い歌のひとつとしてご紹介してみました。コロムビアの「日本映画主題歌全集1」で、他の幾多の興味深い大正末〜昭和初めの歌とともに聴くことができます。

( 2007.12.08 藤井宏行 )


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