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Amor y odio    
  Tonadillas
愛と憎しみ  
     トナディーリャス

詩: ペリケ (Fernando Periquet,1873-1940) スペイン
      

曲: グラナドス (Enrique Granados y Campiña,1867-1916) スペイン   歌詞言語: スペイン語


Pensé que yo sabria
ocultar la pena mía
que por estar en lo profundo
no alcanzara a ver el mundo:
este amor callado
que un majo malvado
en mi alma encendió.

Y no fue así
porque él vislumbró
el pesar oculto en mí.
Pero fue en vano
que vislumbrara
pues el villano
no mostrose ajeno
de que le amara.

Y esta es la pena
que sufro ahora:
sentir mi alma
llena de amor
por quien me olvida,
sin que una luz alentadora
surja en las sombras
de mi vida.

あたしはできると思ったのに
この痛みを隠せると
とっても深い奥底にあるのだから
世間の人の目には届かないと:
このひそやかな恋心
ひとりのワルが
あたしの心に灯した恋

でもそうはならなかった
だってあいつ 勘付いたんだもの
あたしの中に隠してた悲しみを
だけど空しいことさ
勘付いたところで
あのワルときたら
まるで他人のことみたいなんだもの
あたしが愛してるっていうのに

そいつがその痛みなの
あたしが今苦しんでる
心を感じるの
愛で一杯の心
あたしが失ったあいつへの愛で
慰めの光もないのよ
暗闇の中に現れる光
この人生の中に


スペインの歌曲も言葉のカベがあるからでしょうか、あまり容易に耳にできることは多くないようです。ラテンアメリカ起源のボサノバだルンバだレゲエだというあたりは結構日本でもポピュラーですが、日本では柳貞子さんなど一部の人を除いてはあまりスペインのクラシック歌曲を取り上げられることは多くはないでしょうか。私もスペインものはあまりに不案内なのでそれほどたくさんの音楽を聴き込んでいるわけでもなく、また不得意なスペイン語で翻訳をたくさんするだけの能力も気力もないものですから、このサイトでもかなり寂しいジャンルであったことはまぎれもない事実です。
ただそれも非常に惜しいことでもありますので、そんなあまり知られていないスペイン歌曲の中でも名曲中の名曲として知られる、エンリケ・グラナドスのトナディーリャス12曲を一気に取り上げようと思います。これは日本語では「昔風のスペイン歌曲集」と副題がついていますけれども、この中の1曲にスペインの有名な画家・フランチェスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)の思い出を歌った歌があることから推測されるとおり今から200年ほど前、グラナドスの作曲した時期から遡っても100年ほどまえのスペインはマドリッドの小粋な男女たちのことを歌った歌たちです。「トナディーリャ」とは辞書を引くと「短い歌」と出ていました。さだめし日本でいえば江戸の小唄か都都逸かといったところでしょうか。スペインというと日本人がすぐ思いつくフラメンコのような田舎臭さの全くないお洒落な音楽はあまりステレオタイプのスペイン!って感じはしないのですけれども、聴き込むほどに味わいの深まる音楽です。
(実際のところは18世紀にこの「トナディーリャ」というジャンルのポピュラーソングのスタイルが流行したということのようです)
マドリッドの下町で悲しみも喜びもするけれど、なぜだか逞しさを感じさせる女たちのしたたかさと、対照的になんとも頼りない都会の男たちの対比が面白いです。
残念ながら12曲を通して取り上げられることはあまりないようで、私も断片的にばらばらに聴いたことしかないのですが、どれも素敵な歌ばかりです。

歌曲集はいくつかの版によって曲順がだいぶ違っているようです。ここでは比較的トラディショナルに通用している(必ずしも正統というわけではないようですが)に従った順序に並べておきました。
その順での第一曲は男に振られた女の恨み節。Maja(マハ)というのは下町女、そしてMajo(マホ)というのは下町男です。浜田滋郎氏はこの言葉に思い入れがあるのか翻訳でもそのままで通しておられますが、私はそれほどでもないので歌詞の雰囲気に合わせて色々変えてみました。
この歌は詞はだいぶ暗い感じですが、曲はそれほど暗くなく、リズミカルにグチグチと愚痴っています。面白いのは途中「だけど空しいことさ」のところから曲想が明るく華やかになってそのまま輝かしいクライマックスに至ることです。歌詞は「慰めの光もこの人生にはない」なんて言っているところで。
なんだか「恋もひとつのゲームよ」なんて言っていそうな歌です。
歌はそのあとまた冒頭に詞も音楽も戻り、第一節を悲しく繰り返して終わります。

( 2007.12.07 藤井宏行 )


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