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Sur un vieil air    
 
古い旋律に乗せて  
    

詩: ヴェルレーヌ (Paul Verlaine,1844-1896) フランス
    Romances sans paroles - Ariettes oubliées 5 Le piano que baise une main frêle

曲: ボルド (Charles Bordes,1863-1909) フランス   歌詞言語: フランス語


Le piano que baise une main frêle
Luit dans le soir rose et gris vaguement,
Tandis qu'un très léger bruit d'aile
Un air bien vieux,bien faible et bien charmant
Rôde discret,épeuré quasiment,
Par le boudoir longtemps parfumé d'Elle.

Qu'est-ce que c'est que ce berceau soudain
Qui lentement dorlote mon pauvre être ?
Que voudrais-tu de moi,doux Chant badin ?
Qu'as-tu voulu,fin refrain incertain
Qui vas tantôt mourir vers la fenêtre
Ouverte un peu sur le petit jardin ?


ほっそりとした片手が口づけるピアノは
バラ色と灰色の夕べにほのかに輝いている
それとともに とても軽やかな羽ばたきの音
とても古い、とてもか弱い、とても魅力的な調べが
控え目に、ひそやかにさまよっている
あのひとの香りの長くとどまる部屋のまわりを

この突然の揺りかごは一体何なのだろう
ゆっくりとぼくの哀れさをいたわってくれる?
おまえはぼくに何を求めるのだ、いたずらっぽい優しい歌よ?
どうしようというのだ、さだめなきリフレインよ?
お前はあの窓の方へと消えていく
小さな庭に向け わずかに開いたあの窓へと


ヴェルレーヌの詩につけた絶妙の歌曲と言えば、この人シャルル・ボルドも忘れてはなりません。フォーレやドビュッシーのつけた詩と競合する曲が多いのも興味深いのですが、両者とはまた違ったアプローチでこの詩人の傑作を料理してくれるのでたいへんに面白いのです。
フォーレのこの詩人に対するアプローチが典雅さと熱情、ドビュッシーが精妙さとエロスだとすれば、このボルドのアプローチは流麗さと一歩引いた(醒めた)穏やかさにあります。容姿にコンプレックスがあって「やさしき歌」を除いては恋歌であってもどこか熱くなりきれなかったヴェルレーヌの姿をしみじみと描き出してくれるのです。
これはそんなヴェルレーヌの「言葉なき恋歌」の中の有名な一篇。この詩もメロディをつけなくても音楽が聴こえてきそうな美しさに満ちているせいか、あまり歌曲にチャレンジしようという作曲家は多くないような感じです。原詩には題名がありませんので、このタイトルは作曲者が付けたものでしょう。この詩の訳をやってみたかったもので取り上げましたが、他にもフォーレやドビュッシーの歌曲とバッティングする詩(「マンドリン」や「スプリーン」「それは夏の日のことだった」など)につけた歌曲作品がいくつもあって、これらの聴き比べをするのもまた楽しいです。素人の耳ではありますが、彼の作品、決してこれら巨匠の音楽に遜色があるようには聴こえないのですが。
このシャルル・ボルド、ヴァンサン・ダンディなどと共にフランスの著名な音楽学校スコラ・カントルムを創設したという経歴くらいしか紹介されておらず、作曲家としてはほとんど無名の扱いなのですが、私は彼の歌曲作品をいくつか聴いてその美しさに非常に惹かれました。時折フランス歌曲のアンソロジーの中に名を留めていますので気がつかれたらちょっと耳を傾けて見てください。

( 2007.11.24 藤井宏行 )


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