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Rondeau   L 30  
 
ロンド  
    

詩: ミュッセ (Louis Charles Alfred de Musset,1810-1857) フランス
      Fut?il jamais douceur de cœur pareille

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


Fut-il jamais douceur de cœur pareille
A voir Manon dans mes bras sommeiller?
Son front coquet parfume l’oreiller;
Dans son beau sein j’entends son cœur qui veille.
Un songe passe et s’en vient l’égayer.

Ainsi s’endort une fleur d’églantier,
Dans son calice enfermant une abeille.
Moi je la berce; un plus charmant métier
Fut-il jamais?

Mais le jour vient,et l’aurore vermeille
Effeuille au vent son bouquet printanier.
Le peigne en main et la perle à l’oreille
A son miroir Manon court m’oublier
Hélas! l’amour sans lendemain ni veille
Fut-il jamais?

今までにあっただろうか これと同じ心の喜びが
ぼくの腕の中で眠るマノンを見ている時のような
おしゃれな彼女の顔は枕を香らせ
その美しい乳房の中に ぼくは眠らない心臓の音を聞く
夢が舞い降りてきて 彼女はまた陽気になる

こうして野バラの花は眠りにつく
その花びらの中にミツバチを一匹閉じ込めて
ぼくはと言えば その花を揺らす なんて幸せな役目だろう
こんなことが今までにあったろうか?

だが 朝が来て 空が赤く染まると
風と共に彼女の穢れなき春をむしり取ってしまう
手には櫛、耳には真珠を着けて
鏡の前で マノンはぼくのことなど忘れてしまうのだろう
ああ!次の日も 目覚めることもない愛
そんなことは今までにあったのだろうか?


この曲もまたとても印象的なメロディで始まります。初期のドビュッシーの歌曲はほんとうに美しい旋律美に満ちていて、「印象派」の音楽が苦手な方にも抵抗なく聴ける曲が多いのではないかと思いますが、この曲などもそのひとつに挙げられるでしょうか。ミュッセの詩は彼よりももう少し上の世代のグノーやラロなどにはよく取り上げられていますが、ドビュッシーには珍しいかも知れません。しかしこの耽美的でちょっぴりユーモラスな詩を見事に処理していると思います。
“Fut-il jamais?(今までにあっただろうか?)”の使い方が面白いなあ、と思ったのですが、最初の2つはかつて経験したことのない幸福感を表現するために使っていますが、最後のは違います。
決して経験することのできない理想の愛を夢みるために「今までにあったろうか? いや決してありえない」の反語的に使っているのですね。訳詞ではそこのところを微妙に言葉を変えてみましたが、却って失敗してしまっているかも。

( 2007.11.17 藤井宏行 )


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