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C'est l'heure exquise    
  Chansons grise
素敵な時  
     灰色の歌

詩: ヴェルレーヌ (Paul Verlaine,1844-1896) フランス
    La bonne chanson 6 La lune blanche

曲: アーン,レイナルド (Reynald Hahn,1875-1947) フランス   歌詞言語: フランス語


La lune blanche
luit dans les bois.
De chaque brahche part une voix
sous la ramée.
O bien aimée....

L'étang reflète,
profond miroir,
la silhouette du saule noir
où le vent pleure.
Rêvons,c'est l'heure.

Un vaste et tendre apaisement
semble descendre
du firmament
que l'astre irise.
C'est l'heure exquise!

真っ白な月が
森に輝き
枝々からは声が漏れてくる
大きな枝の間を通り抜けて
おお、愛する人...

池の水は映している
深い鏡のように
この黒い柳の木々のシルエットを
風がすすり泣いている
夢を見ようよ、今がその時だ

深遠で穏やかな静寂が
降ってくるようだ
空の上から
月は虹色に輝いている
なんて素敵な時なんだ


フォーレの有名な歌曲集「優しい歌(よい歌)」でも第3曲「白い月」という題名で印象的に歌われている作品ですが、この恍惚に満ちた夜の情景描写ではもうひとり、レイナルド・アーンが絶妙の作品を書いています。
ピアノのさざめく分散和音に乗せて、ひそやかに語りかけるフランス語は溜息が出るほど美しく、歌の巧い歌手のソット・ヴィヴォーチェで聴くとくらくらきます。フォーレに比べるとあまりに通俗的でクサイ音楽だという悪口もありますが、これだけ美しい音楽であればそんな音楽史やら何やらの頭でっかちな評価なんてどうでも良いです。私にとってはただひたすら美しい歌とピアノに耽溺すればそれで良いのです。

とは言いながらこの詩、けっこう翻訳は難しいです。短いフレーズでぽつりぽつりと美しい月夜を描写しているので、言葉の選択を誤るとたいへんに陳腐なものになってしまいます。特に最後の“C'est l'heure exquise”、このexquiseに込められたニュアンスの深さをどういう言葉で表せば良いのか悩ましいです。「絶妙の」であるとか「えも言われない」、あるいは「至福の」などがよく使われますが、私は散々悩んだ末に結局一番陳腐な「素敵な」の言葉をあててみました。アーンはこのフレーズを曲のタイトルにしています。

永井荷風の名訳では、冒頭のLa lune blancheを「ましろの月」としてことの他印象的でしたので、私もこれは「真っ白な月」として清麗感を出してみました。

( 2007.11.09 藤井宏行 )


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