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Infidélité    
  Premier Recueil de 20 mélodies
不実  
     20のメロディー第1集

詩: ゴーティエ (Théophile Gautier,1811-1872) フランス
    Premières Poésies ― 1830-1832 ―  Infidélité

曲: アーン,レイナルド (Reynald Hahn,1875-1947) フランス   歌詞言語: フランス語


Voici l'orme qui balance
Son ombre sur le sentier:
Voici le jeune églantier,
Le bois où dort le silence.
Le banc de pierre où le soir
Nous aimions à nous asseoir.

Voici la voûte embaumée
D'ébéniers et de lilas,
Où,lorsque nous étions las,
Ensemble,ma bien aimée!
Sous des guirlandes de fleurs,
Nous laissions fuir les chaleurs.

L'air est pur,le gazon doux ...
Rien n'a donc changé que vous.
ほらここにはエルムの木、その影が
小道の上で揺れている
ほらここには若い野バラがある
森は静かに眠っていて
ベンチがある、そこに夜には
ぼくらは座るのが好きだったっけ

ほらここには香り立つ木のドームが
エボニーとリラの香りをさせている
そこでは、ばくらは疲れたときに
一緒にいたね、愛しい人よ
花飾りの下で
真昼の暑さをしのいだものだったね

空は澄み、芝生は美しい
何も、何も変わってはいないよ、君のようには!


レイナルド・アーンの歌曲においてはヴェルレーヌを筆頭にして当時のフランスの詩人たちの詩が色々と登場しますが、その中でテオフィル・ゴーティエの詩は割と珍しいかも知れません。現代の私たちにとってはあまり関係ないことですけれども、アーン(1875年生まれ)に取ってはゴーティエ(1811-1872)というのは生まれるはるか前に活躍していた詩人であり過去の人、という感じが強かったのでしょうか。
ただ、そんなフランス文学史上の詩のスタイルの変遷なんぞは分からない素人の目からは、フォーレがその初期の歌曲によく取り上げていたこんな感じのゴーティエの詩にアーンが惚れ惚れするようなメロディを付けているのを聴くのは大変楽しいことです。
Emily Ezustのページではゴーティエの原詩が掲載されていますが、それによればこれは5連からなる詩で、アーンはそのうち最初の2連と、それから5連目の最後の2行だけを取り上げて曲をつけています。

静かに淡々と歌われる過去の思い出。懐かしい景色を前にしながらささやくように。ピアノも控え目に応えます。タイトルの「不実」など微塵も感じさせない穏やかな情景はしかしながら、最後に「何も、何も変わってはいないよ、君のほかには」という言葉で大きなどんでん返しを見せます。でもそこにさえも怒りも悲しみも全く見せようとしないこの歌はなんともいい余韻を残してくれます。
女声で歌われることの多いアーンの歌曲、この歌にもスーザン・グラハムやマディ・メスプレの溜息が出るような美しい録音がありますが、こんな感じの曲はやはり私は男声で聴きたいです。それは同性の声の方が感情移入できるということもあるのでしょう。ブルーノ・ラプラントの穏やかなハイバリトンの歌はたいへんに感動的でした。

( 2007.11.09 藤井宏行 )


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