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Ya pomnyu chudnoye mgnovene    
 
忘れない、あの美しいひととき  
    

詩: プーシキン (Aleksandr Sergeyevich Pushkin,1799-1837) ロシア
      К *** (1825)

曲: グリンカ (Michael Glinka,1804-1857) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Ya pomnju chudnoje mgnovenje:
Peredo mnoj javilas ty,
Kak mimoljotnoje, videnje,
Kak genij chistoj krasoty.

V tomlenji grusti beznadezhnoj,
V trevogakh shumnoj sujety,
Zvuchal mne dolgo golos nezhnoj,
I snilis milyje cherty.

Shli gody. Bur' poryv mjatezhnyj
Rassejal prezhnije mechty,
I ja zabyl tvoj nezhnyj,
Tvoji nebesnyje cherty.

V glushi, vo mrake zatochenja
Tjanulis tikho dni moji;
Bez Bozhestva, bez vdokhnovenja,
Bez sljoz, bez zhizni, bez ljubvi.

Dushe nastalo probushdenje:
I vot opjat javilas ty,
Kak mimoljotnoje videnje,
Kak genij chistoj krasoty.

I serdce bjotsja v upojenje,
I dlja nego voskresil vnov'
I bozhestvo, i vdokhnoven'je,
I zhizn, i sljozy, i ljubov.
忘れない、あの美しいひととき
あなたが私の前に現れた時を
まるで束の間の幻のように
美しい妖精のように

あてどない悲しみの中
空しい日々の暮らしの中
幾度あなたの声を
いとしい姿を夢にみたことか

時が過ぎ、嵐が荒々しくも
夢を蹴散らしてしまった
わたしはあなたのやさしい声を
美しい面影を忘れてしまったのだ。

遠く離れた流浪の暗闇の中
私の日々は過ぎ去っていった
信仰も 感激も
涙も 愛もない暮らしが

しかし、魂が目覚める時が来た
あなたが再び現れたのだ
まるで束の間の幻のように
美しい妖精のように

心は喜びに高鳴り
そして蘇ったのだ
信仰も 感激も
涙も そして愛も


"私はロシア歌曲の中では、コテコテのムソルグスキーのに惹かれつつも、やはりこのグリンカの清楚な抒情性が一番好きです。彼はいわゆる国民学派よりは少し前に活躍した人ですから、あまりロシア臭い音楽は書かず(オペラなどロシア語でなければウエーバーのものみたいですし、弦楽4重奏曲などもシューベルトの曲かと思いました)、しかしその美しい旋律がなぜかロシア語の響きにしっくりと来るのです。中でもこの曲は彼の歌曲の中では一番有名なもののようですけれども、ピアノのためらいがちな前奏に導かれて出てくるメロディの忘れがたさ、一目惚れのふるえるようなときめきをこれほど美しく表した曲はそうあるものではありません。
こんな素晴らしい曲が他にもたくさんあるのに、CD時代になってからは彼の歌曲はなぜか大変冷遇されている感じで、ほとんどリリースされませんし、過去の名演も一向に復刻される気配がありません。ドルリアク/リヒテル(メロディア)・ヴィシネフスカヤ/ロストロポーヴィチ(DG)の2つの夫妻共演盤など、すぐにでも出してくれればいいのに。
外盤でもこの15年間、出たという話を聞きません。
男声では、やはりネステレンコのバス(メロディア)がライブで聴いたこともあって忘れられません。

(1999.04.06 藤井宏行)

グリンカ「忘れない、あの美しいひととき」ディスコグラフィ by ""tora""

現在所有しているのは下記の2枚のみ。

ガリーナ ゴルチャコーワ Galina Gorchakova (sp), ラリッサ ゲルギエワ Larissa Gergieva (ゲルギエフの妹) (pf)
- ""Memories of Love"" (Philips 446 720-2) - トラック4

リーナ ムクルチャン Lina Mkrtchyan (contralto), エフゲーニィ タリスマン Evgeny Talisman (pf)
- ""Glinka songs"" (OPUS111 / OPS 30-227) - トラック5

他にもボリス クリストフのロシア歌曲集(EMI / CZS 67496), Davitan “Romances""(Russian Disc / RD CD 10034), Marina Zelenina & Oleg Petrov ""In the Kingdom of Rose & Wine"" (Sonora / SO 22578), ゲラシモワ&ズコフのロシア歌曲集 (Russican Compact Disc / RCD 16017) に収録されている。尚、英題は ""I recall a wonderful moment"", ""I still remember"", ""I remember the wonderful moment"" etc. と数パターンあり。
CDはこの他にもあると思われる。LP時代のことは残念ながら不知。

というわけで、聞き比べると言っても2枚しかないわけで、しかしこれが全く対照的な歌唱なので、聞き手の好みによって正反対の評価になると思われる。つまり artless v.s. art である。
“art”= 「芸術」と訳さないで欲しい。少なくともここでは技能、技巧の意味である。「芸」の漢字一文字に近い感覚である。

ゴルチャコーワは芸が無い。
ムクルチャンは自分の芸ばかりに固執していて歌の本質的な美を台無しにしている。

それぞれをけなすとこうなる。逆に賞賛するなら、

ゴルチャコーワは非常に率直で、歌の素晴らしさが直に伝わってくる。
ムクルチャンは多彩な表現で詩の世界を描き出す。

と言えるだろう。ようは時代と個々の聞き手の好み次第である。
私の個人的な意見は、ゴルチャコーワのやや投げやりな歌いぶりは好きだが、はっとするような響きのあった1992-3年頃の声と比較すると締まりなく膨張した録音時(1996年)の声が気になって仕方が無い。弱音の不備はさんざん指摘されている。高音域でのff, fffの輝きに比べ、 mf以下で(特に低音域を)歌うときの不安定さはいかんともしがたい。基本的な声楽技術の問題をクリアし、レパートリーを選んで歌って欲しいものである。ムクルチャンはアルバムの中から数曲を選んでつまみ食いするにはいい。でも1枚通して聴こうとすると途中で飽きる。私には too much だから。

(tora)1999.4/21

<追記>

1999年4月23日、セルゲイ レメシェフの「民謡集」を購入。帰宅して開封する折、原題が「私は憶えて・・・」となっていることにやっと気付く。情けない。しかしこれは嬉しい。
録音詳細は不明。歌曲やら民謡やら、1933年から1960年までの放送用のライブをまとめたものらしい。
キリル文字は表示されない恐れがあるが、取り敢えずCD明細は下記の通り。

セルゲイ レメシェフ (Ten), 伴奏者不明
""Я помню чудное мгновенье”(忘れない、あの美しいひととき)
Melodiya/MEL CD 10-00645 トラック1 (新世界レコード社では「民謡集」としていた)

テノール歌手 セルゲイ ヤコブレヴィチ レメシェフ (Sergei Yakoblevich Lemeshev 1902-1977)は1930年代後半から1950年代にかけてソ連オペラ界の究極のアイドルである。両性具有的と形容する人もある異様なまでの明るい音色、アルフレード クラウスを彷彿とさせるスタイル、なかなかのルックス、何しろ当時はレンスキーといえばこの人だったらしい。終演後、楽屋口で女性ファンが待ち構えて彼を取り囲むなんてアタリマエ、彼の乗った車を取り囲み、車ごと担いで彼の住いまで運んで行ったという凄まじいエピソードもあるそうな。当時のソ連の車なんて鉄の塊、楽に1トンを越えた筈。いったい何人で担いだのかしらん。ロシア女は逞しい。
この曲の録音はおそらくキャリアも終わりの頃、50年代後半ではないかと思われる。痛々しいまでの若さは感じられないが、「ロマンチックな甘いテノール」はそのままである。

(tora)1999.4/23

あそびの音楽館で取り上げていただいたのを機にちょっと補足解説を。プーシキンのこの詩は「アンナ・ケルンに」という題ですが、この女性とは実際に彼がミハイロスコエ村という母の領地の寒村に幽閉されていたときに再会をし、そこで送った歌なのだそうです。プレイボーイというやつは手練手管でゲームを楽しむように軽いヤツと、それからこのプーシキンのようにその瞬間は本気で恋をしてしまうようななんといいますか恋愛病みたいな人と極端に分かれるような感じがします。こんな詩を見ると私はどうしても女心をくらっと来させるためのテクニックとは思えないのです。「甘い」と言われればそれまでですが...
その後、ドルリアクのものもヴィシネフスカヤのものもCDで再発され、新しい録音もちらほらと出てきて嬉しい限りです。このプーシキンの、そしてグリンカの最高傑作を多くの人に味わって頂きたいものです。

(2006.12.10 追記)"

( 2006.12.10 藤井宏行 )


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