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人形つくり    
 
 
    

詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本
    思ひ出 (1911)  人形つくり

曲: 高木東六 (Takagi Touroku,1904-2006) 日本   歌詞言語: 日本語


長崎の 長崎の
人形つくりはおもしろや
色硝子………青い光線(ひすぢ)の射すなかで
白い埴(ねばつち)こねまはし 糊で溶かして 砥の粉を交ぜて

ついととろりと轆轤(ろくろ)にかけて
伏せてかへせば頭が出來る

その頭は空虚(うつろ)の頭
白いお面がころころと ころころと…………

ころころと轉(ころ)ぶお面を
わかい男が待ち受けて
青髯の 銀のナイフが待ち受けて
瞼 薄う瞑つぶつた瞼を突いて きゆつと抉ぐつて兩眼あける
晝の日なかにいそがしく
いそがしく

長崎の 長崎の
人形つくりはおそろしや
色硝子…………黄色い光線の射すなかで
肥滿女(ふとつちよ)の囘々(フイフイ)教徒の紅頭巾(あかづきん) 唖か 聾(つんぼ)か にべもなく
そこらここらと撰んで分けて撮(つま)む眼玉は何々ぞ
青と黒 金と鳶色 魚眼(うをめ)の硝子が百ばかり

その眼玉も空虚の眼玉、
ちよいとつまんで瞼へ當てて
面(おもて)よく見て 後をつけて 合はぬ眼玉はちよと彈き
ちよと彈き
箝めた 箝めたよ 兩眼箝はめた…………
露西亞の女郎衆が 女郎が義眼(いれめ)をはめるよに
凄や をかしや 白粉刷毛(おしろひはけ)でさつと洗つてにたにたと
外ぢや五月の燕(つばくらめ)ついついひらりと飛び翔る

長崎の 長崎の
人形つくりはおもしろや
色硝子…………紅い血のよな日のかげで
白髮あたまの魔法爺(まはふおやぢ)が眞面目顏 じつと睨んで 手足を寄せて
胴に針金 お面に鬘 寄せて集めて兒が出來る
兒が出來る

酷や、可哀や 二百の人形
泣くにや泣かれず 裸の人形
赤う膨れた小股を出して 頭みだして 踵を見せて
鮭の卵か 兒豚の腹か 水子 蛭子ひるこを見るがよに 見るがよに
床に積れて 瞳をあけて 赤い夕日にくわと噎(むせ)ぶ
くわと噎ぶ

人形 人形 口なし人形
みんな寒かろ 母御も無けりや 賭博(ばくち)うつよな父者(ててじや)もないか
白痴(ばか)か 狂氣か 不具(かたは)か 唖か 墮胎藥(おろしぐすり)を喫のまされた
女郎の兒どもか、胎毒か………
しんと默つてしんと默つて顫えてゐやる
傍ぢや ちんから目さまし時計
ほんに ちんから 目さまし時計
春の小歌をうたひ出す
佛蘭西の銀のマーチを歌ひ出す

長崎の 長崎の
人形つくりはいぢらしや
いぢらしや



現在では歌えないような語句が散りばめられていますが、歴史的な価値もあろうかと思いましたので歌詞を載せます。

( 2021.06.01 藤井宏行 )


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