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Illalle   Op.17-6  
  7 Laulut
夕べに  
     7つの歌

詩: フォルスマン(コスキミエス) (Aukusti Valdemar Forsman (Koskimies),1856-1929) フィンランド
      Illalle

曲: シベリウス (Jan Sibelius,1865-1957) フィンランド   歌詞言語: フィンランド語


Oi,terve! tumma,vieno tähti-ilta,
Sun haaveellista hartauttas lemmin
Ja suortuvaisi yötä sorjaa hemmin,
Mi hulmuaapi kulmais kuulamilta.

Kun oisit,ilta,oi,se tenhosilta,
Mi sielun multa siirtäis lentoisammin
Pois aatteen maille itse kun ma emmin,
Ja siip' ei kanna aineen kahlehilta!

Ja itse oisin miekkoinen se päivä,
Mi uupuneena saisin luokses liitää,
Kun tauonnut on työ ja puuha räivä,

Kun mustasiipi yö jo silmään siitää
Ja laaksot,vuoret verhoo harmaa häivä -
Oi,ilta armas,silloin luokses kiitää!

やあ 元気かい!夕闇よ、穏やかな星の日暮れよ
お前の夢見る熱情が愛しい
そして 夜のサラサラな髪の毛は
お前の眉の上でやさしく揺れている

今もしも夜よ、おお、魔法の橋があって
私の魂をこの地上から飛立たせてくれるのなら
遠く理想の国へと 私がためらっていようとも
翼が現実の鎖を解き放たなくても

そして私がたとえ昼間は争いに明け暮れ
疲れ切っていようとも お前のもとに飛んでいけるのだ
仕事を終え なすべきことが片付いたあとには

黒い翼を広げ 夜が見えてくる
そして谷間に、山に灰色のカーテンが下りてくる-
おお、いとしい夕暮れよ、きみのところへ急いで行こう!


シベリウスには意外なほどに故国フィンランド語の詩に付けた歌曲が少ないです。それは彼がスウェーデン語を話す家庭に生まれ育ち、後から習得したフィンランド語よりもこちらの言葉の方によりなじみが深かったということが大きな理由でしょう。現在でもスウェーデン語はフィンランドの公用語のひとつでありますし、また当時はフィンランドの文学者でもその多くがスウェーデン語を駆使して作品を書いていたというのもここでご紹介してきたことです。

ただそんな彼の数少ないフィンランド語歌曲、そのいずれもが霊感にあふれた素晴らしい作品であるということもまた語っておく必要があるでしょう。Op.17の後半2曲「夕べに」と「川面に浮かぶ流木」、作品番号がないですがOp.17と同じ頃の作品と言われる「泳げ鴨よ」、そしてもう少し後期のOp.72にある「やまびこの娘」といったところがフィンランド語での歌曲の代表格(あとそのほかにはほんの数曲しかないようです)だと思いますが、彼の数多いスウェーデン語の歌曲と比べても決して引けを取らないポピュラリティと、そして音楽の魅力を誇っています。ですからフィンランド以外の北欧の歌手はこれらの曲を良くスウェーデン語に訳された歌詞で歌ったりもしており、ノルウェーの往年の大ソプラノのフラグスタートや、スウェーデンのベテランバリトン歌手ハーケゴールなどの歌ったスウェーデン語詞によるこの歌の録音も聴くことができます。

さて、フィンランド語による歌の中でも、おそらくこの曲が一番の傑作ということになるでしょうか。昼間の俗事に疲れながらも、これからくる夜の楽しみにはやる心を見事に描き出し、また一度聴けば耳に残る名旋律はこの曲をとりわけ素晴らしいものにしています。
表題の「Illalle」というのは文字通り取れば「夕べ」ということですが、実はこの詩を書いたフォルスマン(コスキミエス)の恋人の名がこのIllalleだったのだそうで、この歌は夕べのやってきた喜びだけでなく、これから恋人のところへ駆けつけられる喜びもまた二重の意味で表しているのですね。

この歌はぜひ訳してみたかったのですが、基礎すらも全くできていないフィンランド語、ほとんどお手上げ状態で数ヶ月寝かしておりました。国内盤のシベリウス歌曲全集にある大束省三氏の訳もなんとなく納得いかないものがあり(フィンランド語が読めないというのになんと大胆な私の発言)、じっくりと練りながら時間をかけているうちに何とか自分なりに意味が繋がってきましたので、彼のフィンランド語歌曲の代表として取り上げさせて頂くことにしました。あとのフィンランド語の歌はたぶん私には翻訳は無理でしょうからここでのご紹介は諦めることにします。

最近CD復刻された、フィンランドの名バス・バリトン キム・ボルイ(Borg)の歌うこの歌が実に見事です。
ヒュンニネンやクラウゼなどの他のフィンランドの男性歌手の歌も素晴らしいのですが、なんといいますかじわりとにじみ出てくる歌心が、このキム・ボルイの歌うフィンランド語歌曲においては格が違うようにさえ聴こえてくるのです。ドイツ歌曲におけるハンス・ホッターのような芸風をシベリウス歌曲で聴かせてくれる彼の歌声はとりわけこの曲において絶妙の味わいを醸し出してくれているのでしょう。
DGのデジパック仕様のCDで出ていますのでかなり廉価で手に入りますし、シベリウスの歌曲を聴かれる方であればぜひ手にとってみられることを強くお勧め致します。CDに対訳はおろか歌詞カードすらないのが残念ですが...

( 2007.10.20 藤井宏行 )


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