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Placet futile   M.64  
  Trois Poèmes de Stéphane Mallarmé
空しい願い  
     ステファヌ・マラルメの3つの詩

詩: マラルメ (Stéphane Mallarmé,1842-1898) フランス
      Placet futile (1897)

曲: ラヴェル (Maurice Ravel,1875-1937) フランス   歌詞言語: フランス語


Princesse! à jalouser le destin d'une Hébé
Qui point sur cette tasse au baiser de vos lèvres;
J'use mes feux mais n'ai rang discret que d'abbé
Et ne figurerai même nu sur le Sèvres.

Comme je ne suis pas ton bichon embarbé
Ni la pastille,ni rouge,ni jeux mièvres
Et que sur moi je sens ton regard clos tombé
Blonde dont les coiffeurs divins sont des orfèvres!

Nommez-nous... toi de qui tant de ris framboisés
Se joignent en troupeaux d'agneaux apprivoisés
Chez tous broutant les voeux et bêlant aux délires,

Nommez-nous... pour qu'Amour ailé d'un éventail
M'y peigne flûte aux doigts endormant ce bercail,
Princesse,nommez-nous berger de vos sourires.

プリンセスよ! わたくしの女神エベへの嫉妬心は
あなたの唇が触れるこのカップに描かれているからですが
情熱が燃えつつも、わたくしの身は慎ましき聖職者でございますゆえ
セーヴェル焼にこの裸の姿を描かれることはないでしょう

わたくしはあなたの愛玩犬ではございませぬし
お菓子でも、口紅でも、気のきいた玩具でもございませぬが
わたくしにあなたの閉じられた眼差しが降り注いでおるのを感じます
金細工師が神業のようなヘアーメイクをするブロンドの髪のあなた様の!

わたくしたちに名をください...キイチゴのような笑い声をなさるあなた様は
飼い慣らされた羊の群れに混じって
願い事を食い荒らし、得意そうにいなないています、

わたしたちに名をください...扇のような翼を持つ愛の神様が
笛を手に羊小屋を眠りにつかせるわたくしの姿を描いてくださるように
プリンセスよ、わたしたちにあなたの微笑みの羊飼いという名をください


マラルメの詩は難しいのですが、読んでいて喚起されるイメージはもの凄いものがあります。この詩などもユーモアあふれる中に引用されてくる比喩は、何でまたこんなものが出てくるのだろう、と訳しているときはたいへん疑問だったのですが、ひとしきり訳し終えてみると見事にはまっています。あんまりおちゃらけて訳すのも良くないのかも知れないですが、私が喚起されたイメージそのままに言葉を紡いでみるとこんな感じになりました。恋して恋して恋しちゃった心がほのかなユーモアと共に描かれます。しかし羊の群れと一緒にいななくあなた様って一体何なんでしょう...?
冒頭部を補足すると、女神エベ(ヘベー)というのはギリシャ神話、ヘラクレスの奥さんとされる神様で、春と若さを司るのだそうです。セーヴェル焼というのはフランスで最も伝統のある焼物なのだそうで、焼いた絵柄の美しさに定評があるのだとか。この焼物のカップにこの女神像が描かれているのですね。そしてそのカップに恋する人がくちびるを付けている。恐らくこの描かれた女神は裸身なのでしょう。それを受けて「私は聖職者だから裸の姿を焼物のカップに描かれることはないだろう」と歌います。
このユーモラスではありますが切ないジェラシーの第1節は意外にも静かな音楽ですが、それを受けて歌われる第2節から心の動揺が現れたかのような揺れ動く調べ。伴奏の弦楽と木管の掛け合いがたいへん美しいです。

( 2007.09.21 藤井宏行 )


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