勇敢なる水兵 |
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煙も見えず 雲もなく 風も起らず 浪立たず 鏡の如き 黄海は 曇りそめたり 時の間に 空に知られぬ いかずちか 浪にきらめく 稲妻か 煙は空を 立ちこめて 天つ日影も 色くらし 戦今や たけなはに つとめつくせる 勇者(ますらを)の 尊き血もて 甲板は から紅に かざられつ 弾丸(たま)の破片(くだけ)の 飛びちりて あまたの傷を 身におへど 其たまの緒を 勇氣もて つなぎとめたる 水兵は 副艦長の 過ぎゆくを 痛むまなこに 見とめけむ 苦しき聲を はりあげて 彼はさけびぬ 副長よ 呼び止められし 副長は 彼のかたへに たゝずめり 聲をしぼりて 彼は問う まだ沈まずや 定遠は 副長の眼は うるほへり されど聲は 勇ましく 心やすかれ 定遠は 戦ひがたく なしはてき きゝゑし彼は 嬉しげに 最後の微笑(ゑみ)を もらしつゝ いかでかたきを 討ちてよと いふ程もなく 息たへぬ 皇(み)國につくす 皇(み)戦の 向ふ所に 敵もなく 日の大御旗(おおみはた) うらうらと 東の洋を てらすなり まだ沈まずや 定遠は 此言の葉は 短きも 皇國をおもふ 國民(くにたみ)の 心に長く しるされむ |
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( 2021.03.07 藤井宏行 )