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父よあなたは強かった    
 
 
    

詩: 福田節 (Fukuda Setsu,-) 日本
      

曲: 明本京静 (Akemoto kyousei,1905-1972) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


以前このサイトでも著書「海ゆかばを歌ったことがありますか」をご紹介しました小川寛大さんの新著が6月に出たとのことで遅ればせながら読ませて頂きました。今日本で妙なイデオロギー色を出さずに軍歌や戦時歌謡のことを分かりやすく、かつ大変詳しく書くことのできる数少ない研究者(と呼ばせて頂きます)のひとりとして私もたいへん着目していますもので。

  軍歌と日本人   別冊宝島1428 宝島社

今回は何人かのライターとの共著ということもあり、また出版元がポップカルチャー系色の濃い宝島社ということもあって、編集内容や本の装丁と小川氏の持ち味とが必ずしもマッチングしていないうらみもありますが、いつもながらの丁寧な資料の読み込みと、これらの歌やその作者たちに対する愛情あふれる文章で多くの歌を紹介してくださっておりとても読み応えがありました。
代表的な軍歌・戦時歌謡とされる25曲についてそれぞれ2〜3ページのエピソードが取り上げられているのですが、そこには小川氏ならではのこだわりが随所に見られ、「抜刀隊」に始まって「敵は幾万」「月下の陣」...と続き、軍歌というには私も抵抗のある「ラッパ節」をあえてこの中に織り込んでいたり、戦時に有名な歌を書いてしまったがために戦後理不尽な非難にさらされてしまった橋本国彦や信時潔のことを取り上げていたり、となんと20曲が小川氏の手になる記事です。これらが見事なくらい私の関心のある曲とラップしていたのですが、ほんのいくつかの曲だけ、なぜか私には聴いても興味を惹かれなかったものが取り上げられておりました。作詞者・作曲者の方(そしてこの曲のファンの方々)には申し訳ないのですが、そのひとつがこの「父よあなたは強かった」です。
確かに出征した兵士たちの血のにじむような苦労、そして戦場の厳しさを歌ってはいるのですが、同じような題材を歌った歌でも古関裕而の「露営の歌」や藤原義江の「討匪行」のようには何回聴いても心に響いてこなかったのです。それはひとつにはこの兵士の家族がその苦労を語っている、という歌詞のスタイルにあるのかと感じていたのですが、小川氏が記事の中でフィリピンでの従軍経験のある作家・山本七平の言葉「われわれは今文字通り「屍と共に寝て/泥水すすり、草を食み」している、その現実の中にいる人間には、それを歌にして歌われていることが耐えられない」(山本七平「私の中の日本軍」より)を引用し、戦地で現実に戦っている多くの兵士たちに取ってこの歌は決して心に響くことはなかったのだ、という記述を読んではっとさせられました。

実はこの曲、私は小川氏の文章で初めて知りましたが戦時中はイケイケどんどんの戦争遂行記事を書いていたとある新聞社が作ったキャンペーンソングだったのだそうです。歌詞は新聞紙上で募集し、作曲家に競作させて曲を作る。一般大衆にウケるものができれば新聞の拡販にもなりますし、時流に乗ればレコードもたくさん売れて良い商売になる。そんな下心が兵士たちに見透かされて「こんな歌を作った奴はタタキ殺してやりたい(山本七平・同著)」とまで言わしめた歌であったことを初めて知り、なるほどそういうことか、と腑に落ちました。

  あの日の戦に散った子も
  今日は九段の桜花
  よくこそ咲いて下さった
    (四番より後半部 福田節詞)

今の世の歌でも、アーティストたちの創作意欲の自然な発露で作られるものからビジネスの論理でウケ狙いで作られて消費されていくものまで多彩なように、戦争当時の歌にも様々な様相があったのだという当たり前のことを、迂闊にも私はこの記事を見て初めて気付かされました。そしてショーバイの論理で作られた作品にはたとえ一時は評判を取っても、時代を超えて愛され続けるものは非常に少ないのだということが、もしかしなくてもこの歌に私が心惹かれなかった大きな理由があったのでは、ということにも...

今の世でも、戦争ではないですけれども多くの人が関心を持っている様々な題材について、メディアは歌やら映像やらを作ってビジネスをしています。金儲けと割り切ってしまえば少々浅薄なものであってもウケれば良い、ということなのでしょうが、そういった姿勢ばかりが強まっていっていつしかそんなものだけしか身の回りに届かなくなってしまっているようなということはないでしょうか。私の杞憂であれば良いのですが、商売の論理ばかりが支配的となり、こうしてゆっくりと「日本の歌」の伝統が滅んでいくということは本当にないのでしょうか...

話が脱線しました。この「父よあなたは」、さすが大新聞社のプロモートがあっただけあり、当時は内地では広く歌われ、また戦後しばらくの間は多くの人の記憶にも残っていたからでしょう。様々なパロディのネタにもなっていたようです。
オリジナルの吹き込みは伊藤久男、二葉あき子、霧島昇、松原操と当時の大物歌手4人がリレーで歌っていくという大変豪華なもの。これが大うけしたのがヒットのひとつの要因ということもあるようです。それまでは泣かず飛ばずだった作曲者の明本京静もこの曲がブレイク作品なのだそうで、この後彼はいくつもヒット作品を飛ばしています。決して私も嫌いな作曲家ではないのですが、なぜかこの出世作だけは私とは相性が悪いです。

本のご紹介に戻りますが、これにも戦前の録音音源による古い軍歌が聴けるCDが付録として付いています。日本の西洋音楽受容の歴史の中でも学校唱歌と並んで軍楽というのはたいへん重要な位置を占めておりますので、これを聴くのはとても意義があることだと私は思っています。ビゼーのカルメンが元ネタだと言われるフランス人軍楽教師ル・ルーの手になる「抜刀隊」や、ベルリーニのオペラ「ノルマ」の合唱曲をそのまま使った永井建子の「月下の陣」など、まさにそんな興味深い曲もきちんと取り上げられていますので、クラシック音楽にこだわる方でも楽しんで聴けるのではないでしょうか。

( 2007.08.15 藤井宏行 )


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