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Volver    
 
帰郷  
    

詩: レ・ペラ (Alfredo Le Pera,1900-1935) アルゼンチン
      

曲: ガルデル (Carlos Gardel,1890-1935) アルゼンチン   歌詞言語: スペイン語


Yo adivino el parpadeo
de las luces que a lo lejos,
van marcando mi retorno...
Son las mismas que alumbraron,
con sus palidos reflejos,
hondas horas de dolor.

Y aunque no quise el regreso,
siempre se vuelve al primer amor.
La quieta calle donde el eco dijo:
Tuya es su vida,tuyo es su querer,
bajo el buron mirar de las estrellas
que con indiferencia hoy me ven volver...


Volver,
con la frente marchita,
las nieves del tiempo
platearon mi sien...
Sentir... que es un soplo la vida,
que veinte anos no es nada,
que febril la mirada
errante en la sombras
te busca y te nombra.
Vivir,
con el alma aferrada
a un dulce recuerdo,
que lloro otra vez...


Tengo miedo del encuentro
con el pasado que vuelve
a enfrentarse con mi vida...
Tengo miedo de las noches
que,pobladas de recuerdos,
encadenan mi sonar...

Pero el viajero que huye
tarde o temprano detiene su andar...
Y aunque el olvido,que todo destruye,
haya matado mi vieja ilusion,
guardo escondida una esperanza humilde
que es toda la fortuna de mi corazon.


Volver,
con la frente marchita,
las nieves del tiempo
platearon mi sien...
Sentir... que es un soplo la vida,
que veinte anos no es nada,
que febril la mirada
errante en la sombras
te busca y te nombra.
Vivir,
con el alma aferrada
a un dulce recuerdo,
que lloro otra vez...

俺には瞬きが見える気がする
遠く離れたあの場所の光が、
俺の帰りを導いてくれるのを...
その同じ光は照らしていたのだけれど、
蒼ざめた光の反射で、
底知れぬ苦しみのあの時を。

俺は帰りたいなんて思っちゃいなかった、
だが人はみな自分の初恋のもとに戻っていくんだ。
あの静かな通りで こだまがいつもこう言っていた 
「あの娘の人生はお前のもの、あの娘の愛はお前のもの」と
あざけるように俺を見下ろしていた星の下で
その星たちが今日は冷ややかに眺めている 俺が帰っていくのを...


帰るのだ
薄くなった髪をして
時間という雪が
俺のこめかみを真っ白に染めた...
感じるのだ...人生など風のようなものだと
20年など無いに等しいのだと
熱にうかされた眼差しで
影の中をさまよいながら
お前を探し、名を呼んでいることを。
生きるのだ
頑なな魂で
懐かしい思い出に浸りながら
もう一度泣けてくるような思い出に...


俺は出会うのが怖い
再び戻ってくる昔が
俺の人生と向き合ってくるのが...
俺は夜が怖い
あふれかえる思い出が
俺の眠りを鎖で縛り付ける夜が...

だが逃げ出す旅人も
やがてその歩みを止めるときがくる
そしてすべてを破壊する忘却が
俺の昔の幻想を殺してしまっても
俺はなお小さな希望をひそかに持ち続ける
それこそが俺の心の宝なのだ。


帰るのだ
薄くなった髪をして
時間という雪が
俺のこめかみを真っ白に染めた...
感じるのだ...人生など風のようなものだと
20年など無いに等しいのだと
熱にうかされた眼差しで
影の中をさまよいながら
お前を探し、名を呼んでいることを。
生きるのだ
頑なな魂で
懐かしい思い出に浸りながら
もう一度泣けてくるような思い出に...



アルゼンチンタンゴの伝説の歌手、カルロス・ガルデルは今もなお故国では国民的な英雄なのだそうです。タンゴがそのスタイルを固めつつあった1910年代にデビューし、深みのある名曲をいくつも自ら書いて歌い、そして映画でも活躍しました。
不幸なことに、1935年、映画撮影をしたアメリカから故郷アルゼンチンへと戻る道中、彼は飛行機事故で44歳の生涯を閉じます。
そんな彼の書いた名曲のひとつ「ボルベール(帰郷)」、まさに彼が事故に遭う直前に撮影していた映画「想いの届く日 El dia que me quieras」の挿入歌です。Youtubeでは映画のこのシーンがUPされていて、彼がこのVolverを歌っている姿を見ることができました。映画でも故郷に帰る途中のシーンのようでしたから、当時アルゼンチンのファンたちが遺作となってしまったこの映画を見てどれほど悲しみにくれたことでしょうか。彼のもうひとつの望郷の歌「わが懐かしのブエノスアイレス」共々、彼の悲劇を知る人には今でもひときわ心に響く悲しくも美しい歌です。この両曲ともに見事な詩を書いたアルフレッド・レ・ペラは彼の伴奏ギタリストでもあったのですが、1935年、彼と運命を共にして亡くなっています。

20年の歳月を経て、捨てたはずの故郷へと初恋の人のもとへと帰っていく主人公。濃密な演歌のような詩がタンゴのすすり泣くメロディに乗せて実に心に響きます。リフレインの部分はアルゼンチンタンゴの定石通りぱっと長調に転調して決して悲しいメロディではなく、そしてまた詩も前向きの決意を歌ってはいるのですが、それでもなんとも悲しくなってしまうのは私も故郷を離れて同じように長いからでしょうか。タンゴの名曲たるにふさわしい傑作です。

ペドロ・アルモドバル監督がこの歌にインスパイアされて撮った映画「Volver(帰郷)」がちょうどこの夏日本でも公開されていますね。この映画でもこの曲は効果的に使われているようで、映画の公式サイトでは歌声も聴けるようです。映画で歌っているのはエストレージャ・モンテというフラメンコ歌手で、スタイルもアルゼンチンタンゴの片鱗も感じさせないディープなフラメンコのスタイルで初めは少々違和感がありましたが、こちらも聴き込むほどにいい味を感じます。詞を自分で訳してから聴くとさらにいい感じ。
ほんとに故郷を離れて20年も30年も過ぎ、人生に疲れた中年や初老の人間の心には深く響く詞と音楽だと思います。

( 2007.08.06 藤井宏行 )


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