Ja snachala tebja ne ljubila Op.63-1 6 Romansov na stikhi K. R |
初めはあたし あなたを愛してはいなかった ロマノフ公の詩による6つの歌曲 |
Ja snachala tebja ne ljubila, ty trevozhil menja i pugal: menja novaja uchast’ strashila, i nevedomyj zhrebij smushchal. Tvoego ja bojalas’ priznan’ja... no nastal neminuemyj chas, i,ne pomnja sebja,bez soznan’ja, ja naveki tebe otdalas’. I rassejalis’ vnov’ opasen’ja, prezhnej robosti net i sleda: pod luchami zari vo mgnoven’e tak tumannaja taet grjada. Slovno solntse,ljubov’ prosijala, i nemerknushchij den’ zablistal. zhizn’ju novoju serdtse vzygralo, i svjashchennyj ogon’ zapylal. |
初めはわたし あなたを愛してはいなかった あなたに心乱され、恐れさえしていた わたしはこの新しい運命が怖かったの 経験したことのない運命に戸惑っていたの わたしはあなたの告白が怖かった だが逃れようのない時はやってきた わたし自身もわからないまま、まったく意識せず わたしはあなたから永久に逃れた すると再び怖れは消え去ったわ 以前の臆病さもかけらも残っていない 朝焼けの光の下でちょうど 山の霧が消え去っていくかのように 太陽のように 愛は輝き始め かけがえのない日々を光らせる 新たな人生に心は奮い立ち 聖なる炎が燃え上がるの |
チャイコフスキー後期の歌曲は詞だけ読むとあまりパッとしないものに多くメロディが付けられているように思いますが、その陳腐なある種の歌謡曲のような歌詞に彼の流麗なメロディが付けられると実に味わい深いものになっています。このOp.63、コンスタンティン・ロマノフという皇帝ニコライ1世の孫として生まれた貴族にして芸術を愛する大パトロンの詩に付けた6曲の歌曲集ですが(1887)、ここに出てくる詩たちも非常に分かりやすく男女の惚れた腫れたを描き出しています。といいながら実はこの第1曲目の詩だけは何とも意味が取れずにお蔵入りしていたのでありました。第1連と最後の連の「起」「結」はたぶんこの訳でそれほど大きく違ってはいないと思うのですが、そこへ至るまでの「承」と「転」のところがどう考えても論理的におかしいのです。辞書を何回も引き、私の手持ちの唯一参考にできるNaxosのCDの英訳もこのような内容でしたので疑問を持ちながらもこう訳しておきました。
曲想は堂々として、まさに最後の節の「新たな人生に心が奮い立つ」といった感じですので、実は彼女から逃げ出したりせずに正面からぶつかったようにも思えます。そうこうしているうちに好きになったというパターンでしょうか。そういう筋書きにしようかとも思ったのですがちょっと材料不足です。
この曲、とても流麗なメロディですのでレイフェルクスあたりの美声のバス歌手に歌ってもらうと大変に映えるように思えるのですが、残念ながら私は男声でこの曲を聴いたことはありません。現在容易に聴けるものといえばNaxosにある歌曲全集Vol.3のリューバ・カザルノフスカヤのソプラノくらいでしょうか。
(2007.07.14)
更新情報Blogの方に、orosiaさんよりコメントを頂きました。その中でこの歌の主人公は女性で、思いがけない男の人から告白を受けて戸惑っているのだ、ということをご教示いただきましたので、訳詞をそのように修正致しました。ロシア語の文法からすれば主人公は女性になる、という基本的なことすら知らずに訳していて本当にお恥ずかしい限りですが、こうして無知を正して下さる方がいて大変に有り難く思っております。(2007.08.04)
チャイコフスキーの歌曲の詩と音楽について全曲を取り上げて非常に詳細な解説をしてくれているR.D.Sylvester著のTchaikovsky's Complete Songs(Indiana University Press)においてこの曲の対訳では、問題の箇所は「私はあなたに永遠に身を捧げた I gave myself to you forever」となっていました。これだと全体の意味はきれいに通るようになりますが、otdalas’には辞書を見る限りでは
遠ざかるとか疎遠になる、延期するという意味しか見つかりませんでしたのでまだすっきりとしたわけではありません。
とりあえず訳は変えずにそのままにしておきました。
( 2008.08.01 藤井宏行 )